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仏壇に向かって弁解する俺と、それを見て可笑しそうに笑う詩乃。
父さんは、こんな俺らをどこからか見てるだろうか。
ヘタレてんな、正宗!って、一発喝をいれてくれよ。
……なんて。
「……詩乃だからだろ」
「え?」
こちらを振り返った詩乃の頭に手をやると、くしゃくしゃと髪をかき混ぜる。
「ちょ! なにするの」
「誰にでもカメラ向けたい訳じゃない。
……詩乃だからだろ」
複雑な表情で俺を見つめ返してくる詩乃。
透き通った無垢な瞳が、
指先に触れる細くて柔らかい髪が、
俺の胸の奥の方をぎゅっと締め付ける。
……“詩乃だから”。
口にしたら、なんて単純な理由なんだ。
だけど、それが全てで。
俺は微笑みを浮かべた父さんの遺影に、
もう一度しっかりと手を合わせた。
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