こっち向いて

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ふと、廊下から数人の話し声が聞こえてくる。 「見た? 今。皆川居たろ」 ……皆川? 詩乃の名前が耳に飛び込んできて、俺は思わずその会話に耳をそばだてた。 「見た見た。相変わらずスタイルいいよな~」 「性格も良くて顔も可愛いもんな」 「そりゃお前がフラレるはずだよ」 「ってオイ! 今それ関係あるかよ!」 「ウッソ、お前皆川に告ったの!?」 「えー!! なになに、詳しく!」 「うるせー! 傷を抉るんじゃねーよ」 ――――――― 盛り上がりながら遠ざかっていく話し声。 はぁ………… 俺は無意識に止めていた息をゆっくりと吐き出した。 ……そうだ。詩乃は、モテる。 分かってはいたけど、実際他の奴らからああいう会話を聞くと、否が応でも思い知らされる。 俺はさっきの誰かみたいに、 気持ちを伝えてすらいないのに。 苛つく資格も、嫉妬する資格も、ない。 ないんだよ……
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