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突然、後ろの扉が小さく開いて、
「あ、やっぱり正宗だ」
ジャージ姿の詩乃がひょっこりと顔を出した。
「っ詩乃! なん、でこんなとこに」
動揺を隠してなんとか平静を装う俺に向かって、詩乃は困ったように片眉を下げた。
「サポーターを教室に忘れちゃって取りに来たの。それで、ちょっと……寄り道」
歯切れの悪い詩乃の様子で、俺はすぐに事情を察した。
大方、靴箱でさっきの奴らと鉢合わせしたくないんだろう。
「……あの男に、告白されたの?」
「あ……正宗にも聞こえてた? もーさぁ、ああいう話は本人に聞こえないようにしてほしいね」
ドアにもたれ掛かりながら、苦笑いする詩乃。
「……振ったの?」
「え……うん」
「彼氏欲しいって言ってたのに」
「いや! 私、誰でもいいからなんて言ってないからね? 好きな人と両思い……なんてさ、ちょっと羨ましいなって思っただけで」
詩乃はポニーテールの毛先をいじりながら、ボソボソと弁解する。
詩乃が、これから好きになる人
詩乃が、これから付き合う人
それが、俺じゃなく他の誰かなんて。
……そんなの。
考えただけで、耐えられない。
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