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「……ねぇ、ちょっとこっち来て座ってよ」
俺は立ち上がると、詩乃に背を向けたままロッカーのカメラケースからカメラを取り出した。
「え? 私そろそろ部活戻らなきゃなんだけど……」
「すぐ終わるから。ほら、ここ」
詩乃は時計を気にしながらも、俺に指図されるがまま窓際の席に座る。
俺は、二つ前の机に腰掛けて、
そんな詩乃に向かってカメラを構えた。
「……っなに!? えっ、写真?」
ヤだよ急に!と詩乃は両腕で顔を覆う。
「ただのカメラテストだよ。こっち向いてよ」
「カメラテストって……モデルじゃあるまいし! ねぇ、ちょっと、汗かいてるしホントに撮らないでよ」
慌てる詩乃はお構いなしに、俺はファインダーを覗きながらもう一度レンズを詩乃に向けた。
「……こっち、向いて」
いつになく低く落ち着いた声が出て、自分でも少し驚いた。
詩乃もその変化に気づいたように、ハッとこちらを見上げる。
「……どーしたの? 正宗。なんか……いつもと違う」
顔半分を手で隠したまま、詩乃は俺をじっと見つめてくる。
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