こっち向いて

5/11

275人が本棚に入れています
本棚に追加
/90ページ
「……ねぇ、ちょっとこっち来て座ってよ」 俺は立ち上がると、詩乃に背を向けたままロッカーのカメラケースからカメラを取り出した。 「え? 私そろそろ部活戻らなきゃなんだけど……」 「すぐ終わるから。ほら、ここ」 詩乃は時計を気にしながらも、俺に指図されるがまま窓際の席に座る。 俺は、二つ前の机に腰掛けて、 そんな詩乃に向かってカメラを構えた。 「……っなに!? えっ、写真?」 ヤだよ急に!と詩乃は両腕で顔を覆う。 「ただのカメラテストだよ。こっち向いてよ」 「カメラテストって……モデルじゃあるまいし! ねぇ、ちょっと、汗かいてるしホントに撮らないでよ」 慌てる詩乃はお構いなしに、俺はファインダーを覗きながらもう一度レンズを詩乃に向けた。 「……こっち、向いて」 いつになく低く落ち着いた声が出て、自分でも少し驚いた。 詩乃もその変化に気づいたように、ハッとこちらを見上げる。 「……どーしたの? 正宗。なんか……いつもと違う」 顔半分を手で隠したまま、詩乃は俺をじっと見つめてくる。
/90ページ

最初のコメントを投稿しよう!

275人が本棚に入れています
本棚に追加