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10年前。
俺の背中を抱き締めてくれたあの温かい手と、
同じはずなのに、何かが違う。
そう思うのはきっと、俺の詩乃に対する気持ちが、あの頃と明らかに違うからだろう。
想像してたより華奢な手首。滑らかな指先。小さな爪。
握った手に力を込めると、詩乃はビクッと小さく身体を震わせた。
「正、宗……? なに……」
小首を傾げてこちらを覗きこむ詩乃。
その澄んだ瞳に、吸い寄せられそうになる。
……あぁ、やばい
俺は、その手を引いて、詩乃の耳元に唇を寄せた。
「…………、だ」
「え」
「俺……詩乃のこと」
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