笑顔にしたいのに

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俺は平静を装って冷蔵庫から牛乳を取り出すと、わざと顔を背けて一気に中身を(あお)った。 「あっ、正宗! 牛乳パックに口つけるなって何度言ったらわかるの!」 着付けで手が離せない母さんが何やら大声で言ってるけど、とてもそれどころじゃない。 「ふふ……いつもそうなの?」 「そうよー! 不衛生だからやめてって言ってんのに聞かないんだから」 詩乃と母さんが話しているのをチラリと盗み見る。 「よし、出来た!」 母さんの声に、詩乃が仕上がった背中の帯を自分の肩越しに覗きこんで。 「あ……」 久しぶりに見た、詩乃が笑ってるところ。 ぎゅっと胸が締め付けられるような感覚。 堪らない気持ちになる。 できることなら、俺が笑顔にしたいのに……
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