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「……詩乃、もう出掛けるの?」
「うん、神社で待ち合わせだから」
「じゃ……そこまで送る」
俺は荷物が入った巾着を横から奪うと、詩乃の返事を待たずに玄関へ足を進めた。
「大丈夫だよ、近いし……」
気まずいから困る、そんなニュアンスの言葉を無視して、俺は玄関の外に出る。
詩乃は、下駄を引っかけて歩きづらそうに俺のあとを追いかけてきた。
「待ってよ正宗」
「おい、走るなよ……転ぶって」
「あっ……!」
段差に躓いて前につんのめりそうになる詩乃を、咄嗟に二の腕を掴んで支えようとする。
その瞬間―――
詩乃の腕が、浴衣越しにビクンと震えた。
あの日の放課後、手を振り払われた感覚が、一瞬フラッシュバックする。
気づいたら俺は、自分から詩乃の手を離していた。
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