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「……誰にでも…………じゃん」
独り言のように呟いた声は、あまりに小さくて。
「え? なんて……」
「別に! さ、行こ行こ! じゃあね正宗」
詩乃はこちらに見向きもせずに、友達を先導するように歩いていってしまった。
「……なんだよ」
一番近かったはずの詩乃が、
一番お互いを知っていたはずの詩乃が、
「全然わかんねぇ……」
あの日、あの放課後の教室で、机二つ分の距離から見た詩乃が……今はうまく思い出せなくて。
俺が笑顔にしたいのに、その俺が彼女を困らせてる。
それだけは明らかだ。
「あんな顔、するなよ」
それでも……
さっき詩乃が見せた今まで見たことのない表情に、俺は戸惑いを隠せないでいた。
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