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「あれー! 久世くん、髪切ったんだね!」
不意に後ろから名前を呼ばれて振り返ると、祭りの日に家の前で会った詩乃の友達が、こちらに手を振っていた。
「短くなってて誰かと思った!」
「ねー! いい感じだね」
「あ……どうも」
ほぼ初対面の俺に対しても、気さくで壁を感じさせない二人。さすが詩乃の友達。類は友を呼ぶってやつだ。
褒められ慣れてない俺は、こういう時どう返していいかわからない。
「ねぇねぇ、久世くん……ちょっと聞いていい?」
「なに?」
二人は何やら目配せし合うと、少し声を潜めて俺に耳打ちをしてきた。
「……詩乃とは、付き合ってるわけじゃないの?」
耳にタコが出来るくらいされてきた質問なのに。
「……違うよ」
今が一番、返すのがキツい。
「えー凄くお似合いなのにね」
「やっぱり意外だよね」
そんな何気ない言葉も、今の俺にとっては……
「あ、噂をすれば詩乃だ。
詩乃~久世くんいるよ、こっち……」
友達の一人が、詩乃に向かって手招きしようとして、
「待って!」
「わ」
俺は咄嗟にその手を掴んで制してしまった。
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