一人の男として

2/14

275人が本棚に入れています
本棚に追加
/90ページ
あれから、画像を転送したり選んだりするのも全部手伝わされて、結局家路につく頃には空が夕焼けに染まっていた。 日が落ちかけたオレンジ色の空を眺めていると、あの日の放課後を思い出す。 俺の呼び掛けに首を傾げて応える詩乃に、気づいたら衝動的にシャッターを切っていた、あの時のこと。 「―――正宗!」 「……へ」 自宅を目前に突然呼び止められて、物思いに耽っていた俺は思わず間抜けな声をだしてしまった。 「詩乃……」 「おかえり。結構遅くまでやってたんだね」 玄関を出てきたばかりの部屋着姿の詩乃は、小さい鍋を手にして俺に近づいてきた。 「今日、正宗んちのおばさんが同窓会で居ないから、ウチで正宗の分の夕飯も作ってたの。 おばさんからカギ預かってたから今届けようと思ってたんだけど……ちょうどよかった。はい、チキンカレー」 「……あ、さんきゅ」 受け取った小鍋から、スパイスのいい香りが漂う。 詩乃んちのおばさんが作るカレーは絶品で、こう言っちゃなんだけど、母さんのより断然旨い。
/90ページ

最初のコメントを投稿しよう!

275人が本棚に入れています
本棚に追加