一人の男として

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じゃあね、と踵を返した詩乃を、 「あ、待って」 俺は反射的に呼び止めていた。 「ん?」 「えー……っと、なんだ、だから……」 ただ、もう少し詩乃と話をしたくて。 とは言い出せず…… 「ふ、風呂!入りたいから、その間に詩乃がカレー温めてよ」 ……我ながら意味不明。 でも、引き留める口実なんて何でもいい。 「ふっ……! 亭主関白か!」 詩乃が、久しぶりに俺に向かって笑った。 ズクン……と心臓が音を立てて騒ぎだす。 やばい。 詩乃の笑顔がこんなに嬉しいなんて…… ただの言葉の綾とはわかっていても、“亭主関白”という響きをついつい噛みしめてしまう。 ニヤけそうな口元を拳で隠していると、詩乃は呆れたように肩を竦めた。 「仕方ないな……すぐ入ってきなよ」 「……さんきゅ」
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