一人の男として

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風呂から出る前に、冷たいシャワーを頭から浴びる。 未だに騒がしい心臓をなんとか落ち着かせようと試みるけど……どうやら無駄な抵抗みたいだ。 「さみ……」 いくら夏だからって冷水はキツい。 俺はそそくさと部屋着に着替えて、濡れた頭をタオルで拭きながらリビングに足を踏み入れた。 「お、いい匂い」 カレーの食欲をそそる香りと、 キッチンで鍋をかき回す詩乃の姿。 「今ご飯温めてるから、その間に髪乾かしちゃって」 見慣れた母さんの赤いエプロンも、詩乃が身につけると途端に新鮮で。 なんだか新婚みたい……なんて邪な妄想が浮かんで、すぐに理性総動員で打ち消した。 これ、まずい。いろいろグッときすぎて…… 俺、普通にできるかな…… 「聞いてる? 髪の毛!」 「あ……自然乾燥した、ほとんど」 「えーほんとに? そういえば正宗、髪短くしたんだね。どうしたの急に。心境の変化?」 「……まぁそんなとこ」 「ふぅん……」 自分から聞いといて、さほど興味なさそうな返事。 俺はそんな詩乃に苦笑いを浮かべながら、横から近づいて鍋を覗きこんだ。
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