一人の男として

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「旨そう」 「わ、」 俺の気配に気づいていなかったのか、詩乃はビクッと身体を弾ませた。 その拍子に、お玉から跳ねたカレールーが詩乃の手の甲に飛ぶ。 「あっつ!」 「おい……!ちょっ……」 俺は反射的にその手をつかんで、蛇口を捻った。 流水に手を差し入れて、火傷した箇所を冷やす。 「……跡にならないといいけど」 「う、うん」 俺はとにかく詩乃の手を冷やすことに必死で、俺らの距離があのとき以上に近いことも、詩乃が今どんな表情してるかも、気に掛けてる余裕は一つもなかった。 「ごめん、俺が急に話しかけたから」 「や、違うよ、大丈夫だから!もう平気……」 詩乃が少しだけ振り返って俺を見上げた。 必然的に上目遣いになる至近距離からの視線に、俺はハッとして手を緩める。 詩乃もまた、同じタイミングで視線を前に戻した。
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