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「…………私、こんな顔、してる……?」
「えっ?」
「正宗に、私……こんな顔してたんだって思って……
なんか、恥ずかしいね」
詩乃は、ふふっと笑って、指で頬の涙を拭った。
「ずっと……正宗に一番近いのは、私だって思ってた。でもそれは、大事な幼馴染みとしてだって……
だから、このモヤモヤした気持ちも、ヤキモチなんかじゃないって、思ってたの」
後ろに他のお客さんが通る気配がして、詩乃がハッと振り返る。
俺は詩乃の手を引いて、展示スペースの死角に移動した。
繋がれたままの手を、お互い沈黙のまま見つめる。
放課後の教室で、
俺の家のダイニングキッチンで、
そして今も……
手のひらの中の小さくて華奢なそれは、何度でも俺にこの気持ちを再確認させる。
あぁ……この手の居場所は、
いつだって俺の手の中でありたい。
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