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「あ……のさ……抱き締めても、いいですか」
「!」
詩乃は、俺の言葉に一瞬目を見開いて、ちょっと困ったように笑う。
「あは、なんで敬語……」
言い終わる前に、俺は詩乃の体を引き寄せて、包み込むように抱き締めた。
あったかい……
父さんが亡くなった日以来、10年振りに抱き締めた詩乃は、あの日と変わらない温かさで。
こうして俺の腕におさまっている詩乃が震えるほど愛しくて、それに詩乃も応えてくれてるという、奇跡のような現実。
あの日より少し早い詩乃の心臓の音も、心地よいリズムとなって俺をじんわりと癒していく。
「正宗……もしかして、泣いてる?」
「……泣いてない」
「え、うそ、ほんとに……?」
「……勘弁して。今俺いっぱいいっぱいなんだから」
何とか声を取り繕うけど、鼻を啜った音で詩乃には決定的にバレてしまった。
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