追われ屋

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 南口に出た。海へと続く広い道路が駅から真っ直ぐに伸びている他は、非常に狭い路地が、まるで迷路のように入り組んでいる……いろいろとずぼらな私だが、下調べくらいはする。  残り1分。  もういいだろう。私は追跡から逃れる為に、洒落たアパートメントが建ち並ぶ路地へと入ると、ファーマフラーを外してそっと地面に降ろした。  私を追って路地を曲がった追跡者は、首を捻ることになるだろう。大通りと違い、人もまばらな狭い路地。追っていた男(すなわち私)は確かにこの路地を曲がったのに、犬を散歩させている人影しか見当たらないという、世にも不思議な現象を、彼はこれから()の当たりにするのだ。 「おかげで今回もうまくいったよ。美味しいおやつを買って帰ろう」  私は、前を歩くかけがえのない相棒──ついさっきまで私のファーマフラーだった真っ白な愛犬へと笑いかけた。  ファーマフラーだけを目印に私を追っていた探偵が、きょろきょろと、ひどく慌てた様子で、私の横を駆け抜けていった。 [了]
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