砂漠の王国ロブリーズの場合

1/1
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ

砂漠の王国ロブリーズの場合

帝国メガロポリスでは庶民の食べ物であったカップ焼きそばも、その隣、国境にもなっている石灰峠/ダンベルロット山の南側を占める王国ロブリーズでは少し事情が変わってくる。 「ただいま帰りました!」 「おー、おかえり!」 「その荷物はどうした。」 「本日のお土産;カップ焼きそばです!!」 なんせ一国の中に近雪原・砂漠・草原・熱帯地域があるのだ。紹介する側としてはたまったものではない。此処は留学生の力を借りるとしよう。 帝国からの留学生、リノクのアサヒは王国ロブリーズ中央部に広がるプレイグラ沙漠…の中にある始まりの街ランズに滞在し、地元のユニオンと共に活動していた。その働きはまだまだ街中に聞こえてはいないが、彼は与えられた仕事を地道にこなしていた。今日は予定通り、帝国政府からの支給品を受け取りに索道駅まで向かい、先程帰宅したばかりだった。 だからついでに、頼んでおいたのだ。 支給品のカップ麺は、カップ焼きそばにする様にと。 「うおぉコレが噂のカップ焼きそばか…!」 「なんだこれは。」 「カップ焼きそばです。」 流石に沙漠地帯にカップ焼きそばは流通していなかった。帝国に最も近い山岳都市スパイクによく行くモーニこそ知っていたが、基本的にこの街から出ないエメットさんは知らない様だ。 アサヒは早速カップ焼きそばを出して、街のリーダーに教えた。 「外装を取って、中のかやくだけ先に開けて」 「っ、またプラスチック製品か。  帝国め、処分に困る物ばかり次から次へと作りおって…」 「あー今その話は無しで。  お湯をかけて3分待ってる間に、液体ソースを蓋の上で温める。」 「お湯?マッケンロー、頼む。」 「分かったわ。」 マッケンローは目映い光を放つ茶色い石から素焼きの器と青い石と赤い石を出した。それから、青い石を素焼きの中へ入れた。赤い石をテーブルの上、素焼きの傍へと置いた。 「意識に宿りし希望の川よ、罪人清めし聖水となれ。リバーズ!」 紫魔法士が呪文を唱えると青い石は光り、器を水で満たした。 「意識に宿りし希望の灯火よ、罪人(つみびと)焼く焔となれ。パッション!」 紫魔法士が呪文を唱えると赤い石は光り、器だけを燃す炎となった。 「はい、どうぞ。」 「ありがとうございます!」「ありがとう。」 王国は魔法で回っている。故に、こうしてお湯は作られた。 魔法士が居れば、譬え今居る所が沙漠のど真ん中であろうと、火も水も直ぐに調達できた。 「湯を入れたぞ。それで、どうするんだ?」 「3分経ったら湯を捨てて、ソースとふりかけをかけて出来上がり。」 「…捨てた湯で油塗れになりそうだな、砂で埋めるか…」 ただ、此処はやはり沙漠だ。 魔法と無関係な水は井戸と遠く離れたオアシスにしかなく、水で物を洗う時などは街から離れた場所で行うのが普通だ。それでも、沙漠で油塗れの水を捨てたらどうなるか…エメットさんはそういう事を考えていた。 ちなみに下水道の洗浄は、砂と人の手で行われている。 「さて出来たな、実食と行こうか。」 「どうぞどうぞ。」 果たして、カップ焼きそばは出来た。 つやつやとした茶色い麺の上で、刻まれた紅生姜とキャベツが踊っている。 …青のりや鰹節が無いのは、大陸近海に現れた黑い海のせいだ。 「あぁ、久しぶりに食べるとうまいなー!」 「…思ったより美味しいわね。」 「やたら辛いな。」 「そう?カマツカとトマトの煮込みごはんより辛くないよ。」 「それは…唐辛子を入れすぎた出来損ないだな。」 「そうなの?!…もしかして僕、本場の味食べ損ねてる?」 「今度モーニに連れて貰え。」 カップ焼きそばは、王国民にはまだウケてそうだ。 アサヒは本日不在にしている2人にもいつか食べさせる事にした。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!