刀の君

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刀の君

 斬撃(ざんげき)────  もしその刃が体に到達していたら、間違いなくそうなるだろう。  だが白刃は美しい弧を描いた後、玲子(れいこ)の顔のすぐ側、用具倉庫に立て掛けられていた、ベニヤの看板を穿(うが)ったところでようやく静止した。   断ち切られた大きな楓の葉が、はらはらと落下していく。   グラウンドの照明を反射してギラリと光る刀身が闇の中に浮かび上がった。 「しまったな……」  陶器のように白い肌、漆黒の髪から見える切れ長の瞳。  その怖いくらいに整っている顔を歪めて、彼は苦しそうに視線を逸らした。    (じん) 政義(まさよし)  彼は学校では有名人で……  クラスの女子の半分が、彼を見かけると黄色い声をあげた。  だから人の顔を覚えるのが苦手な玲子でも、彼の顔だけは知っている。 「……聞いてるか? 橘玲子(たちばなれいこ)────」  その声は予想通り、その風貌にあまりにも似つかわしい夜を溶かしたような低い声。  硬直した玲子の脳内にその声が鳴り響く。 (どうして私の名前を……??)  学校は普通の公立高校で、生徒数も多いとはいえないが決して少なくも無い。  玲子が一方的に知っているとしても、彼が玲子の事を知っているとは考えにくい。  何の繋がりも持たない2年生の男子と1年生の女子。  音を制圧したような美しい所作で、刀が鞘に収まった。   鈍い光を放っていた刀身が見えなくなると、途端に現実に引き戻された。玲子は自分の危機的状況を理解する。 (……モモ……)    呼気に紛れて言葉が滑り落ちる。  静寂(しじま)を断ち切るように玲子が大きく息を吸い込み叫んだ。 「モモ!!!」  二人の間をグラウンドの砂と落ち葉を巻き込みながら猛烈な風が吹き抜けた。 「待て……!!」  強風に巻き込まれて彼の声はかき消える。    
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