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彼女と出会い、そして彼女を捜し始めてひと月が経った。なのに、まだ見つからないという悲しさ。
バルコニーに突っ立っているだけというのも、また悲しい。
馬鹿みたいにボサッとしているのもいい加減に飽きてきたので、いつものように裏からこっそりと城を抜け出して散歩に出る。
華やいだ城下町は活気に満ちて明るいけれど、俺の足は自然とあの浜辺に向かっていた。
優しい風が海面にさざ波をたてて太陽の光をはね返す。
俺は日焼けなんて気にせずに、日の光を全身に受けながら白い砂地に足跡をつけていった。そのまま進んで行けば辺りを岩で囲まれた入り江に着く。
ここは俺が以前流れ着いた場所で、ひと気がないからボンヤリするのにうってつけだ。
柔らかい砂の上に腰を下ろし、海を見るのが至福のときだった。
こんな風にボサッとすることと食べることが大好きだ。もちろんなまけてばかりではなく、体を動かすのだって忘れない。水泳は得意だ。
得意と言いつつも溺れたけれど、それも俺の歴史の一つだと思う。
「ん?」
不意に俺の視界は、波打ち際に倒れている人の姿をとらえた。
一人の女の子が砂の上でぐったりとうつ伏せている。予想もしていなかった状況に不覚にも動揺してしまう。
「だ、大丈夫ですか?」
慌ててその子に駆け寄って、声をかけながら仰向ける。途端、胸が高鳴った。
光の糸のような金髪に、あどけなさの残る繊細な顔立ち。
どことなくあの人魚に似ている気がする。けれど少女の脚は人間のそれだから、彼女とは別人と考えるのが自然だろう。
目の前の少女はぐったりとしているし、身につけている服は海水をすって重くなっている。
脈はある、息もしているけれど、目を覚ます気配はない。
「もしもーし、大丈夫ですか? おおーい!」
軽く頬を叩き、耳元で呼びかけても反応がない。
どうすればいいのだろう。この子をこのままにしておけない。
となれば取るべき行動は一つ。
「よっと」
軽く声をつけて少女を抱きかかえた。
考えている間が惜しい、とにかくここから運び出そう。
早く病院へ連れて行かないと。いや、それより城で診てもらう方が手っ取り早い。
「待ってて、すぐに着くから」
少女に呼びかけながら、俺はきたばかりの道を足早に戻っていった。
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