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太陽の光が水面に反射してキラキラと輝いている。波にかき混ぜられた光のきらめきが目に痛いくらい眩しい。
俺は城のバルコニーに立ち、手すりに肘をついてそれを眺めていた。すぐ下は海になっていて、潮騒が耳によく届く。
海を一望できるここは城内でも奥まった場所にあるから、立ち入る人は少ない。おかげでゆっくりと物思いに耽ることができるお気に入りの場所だ。
海辺に建つ城の王子として生まれ、毎日のようにこの海を見て育ってきた。波の音を聞きながら海を見ていると不思議と心が癒される。
けれど最近はそれとは別の理由でこの場所へくるようになった。
どうしても見つけたい相手がいて、わずかな期待を込めて海を見渡す。
目当ての人物は今日も見つからない。
絶対にいるはずなのに。
金色の髪をした、青い目の人魚が。
あれはひと月前のことだ。
その日は俺の誕生日で、満月の灯りの下で船上パーティをおこなっていた。
「王子様、お誕生日おめでとうございます。王子の健康と国の平和がいつまでも続くことを」
そんな感じの祝いの言葉が続いていたが、俺はそれどころではなかった。
目の前には俺の為に用意されたごちそうがあるのに、長々と続く前置きのせいでそれらを口に入れることができない。
どうでもいいから早くそれを食べようよと、何度その言葉を口に出そうと思ったことか。
祝いの言葉が終わるのが先かお腹と背中がくっつくのが先かを真剣に考えていると、様子を見かねた父さんが威厳のある声で言った。
「うむ、祝いの言葉はもうよい。今日は無礼講だ。飲んで踊って存分に楽しむがよい」
「よし!」
その言葉を合図にごちそうにがっついた。
「ああ、はしたない」
という母さんの嘆く声が聞こえたけれど、それは無視した。出された食事はおいしかったし、出し物は楽しい。
たまにはこういう誕生日会も悪くないものだ。
船員たちが騒ぎ出したのは、それから二時間ほど経った頃だった。
「みなさん大変です、嵐が来ます!」
船員さん、キミはなにを言っているんだい?
「なんだろう、今幻聴が聞こえたよ。やだなぁ」
「気が合うな息子よ。実はワシもなんだ」
「みなさん、船の中へ! 嵐がきます!」
きっと気のせいだろうと解釈して片付けたかったのに、船員さんは慌てながらみんなを促した。
幻聴ではなく本当に聞こえた。
嵐がくる、と。
船上が一気にどよめきだす。
「やだなぁ」
俺の短い呟きを最後まで聞かない内にみんなは逃げ出していた。
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