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でも、杉崎くんとは、あの夏祭り以来、関わることは無かった。
そして、夏は過ぎ、冬が来て、春になった。
高校受験という人生の中の一つの大きな山を越えて、私は県内の私立高校に、杉崎くんは県内でもトップレベルの進学校へと進んだ。
住所も電話番号も知らないまま───
だから、それきり、杉崎くんとは会っていないし、お互い今どこにいて何をしているのか何も知らずにいた。
それが今日、時計を落としたばかりにこうして再会してしまったのだ。
「なんか、久しぶりだな」
杉崎くんは7年前と全く変わらない顔で笑った。
それから、雨はもうやんでいたので、二人で故郷の町を話しながらぶらぶら歩いた。
杉崎くんは、高校卒業後アメリカに渡り、現地で英語と文化を学んだらしい。
そして、今はその経験を生かし、旅行会社に勤めているそうだ。
「アメリカってとこはさあ、やっぱり凄いんだ。いろんな人はいるし、見たこともない絶景だって数えきれないほどあって、やっぱこう、世界って広いんだなって思ったよ。」
故郷に帰って、久しぶりにこんなに楽しい時間を過ごした。
それだけで、時計を落とした甲斐があったのかなと思える。
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