魔法の腕時計

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「お客さま、今日も買われないんですか?」 いつも接客をしている髪の長い女の人から話しかけられた。 「この時計、さっき購入したいって人が現れたんですけど店長、『これは売り物じゃないんです』って嘘ついてまであなたのために売らないでとっておいてくださったんですよ。」 その言葉を聞いて、私は慌てて財布の中身を確認した。 良かった。 3万円までならなんとかなりそうだ。 「どうなさいます?」 女の人は優しい眼差しで問いかけた。 『恋人はサンタクロース』なんて歌があるけれど、私に恋人はいないし、それに、サンタクロースが来てくれたことも一度もない。 それなら、自分がサンタクロースになれば良いんじゃないだろうか。 そう考えて、思い切って買うことに決めた。 「わかりました。これ、買います!」 「かしこまりました。では、店長をお呼びしてきますので、少々お待ちください。」 女の人が店の奥に消えて、程なくして店の奥から眼鏡の白髪頭のおじいさんが出て来た。 「お客さん、やっとこの時計を買ってくれるのかい?」 「はい。」 私は迷うことなくきっぱりと言い切った。
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