22人が本棚に入れています
本棚に追加
不安な気持ちで、恐る恐る財布から千円札を抜き取り、差し出したが、「実はドッキリでしたー!」なんてことを言われるでもなく、おじいさんは千円札を受け取ると会計を済ませ、時計を箱に詰め始めた。
そして、箱の入った紙袋を渡される時に確かにこう言ったのだ。
「これは〈運命〉を引き寄せる魔法の時計。
だから、大切にするんじゃよ。良いクリスマスを。」
気づいたら家に着いていて、テーブルの上にはさっき買ったばかりの腕時計の紙袋が置いてあった。
私は夢を見ていたんじゃないだろうか。
それとも、これも夢の一部なのだろうか。
紙袋の中には小さな星のイラストが散りばめられた濃紺の箱に雪のように真っ白に光るリボンが結ばれていた。
そのサテン生地のつやつやと光るリボンをほどき、箱を開けると、ショーケースのガラス越しに見たのよりも、より一層輝きを増したあの腕時計が凛とした澄んだ光を放って佇んでいた。
その光を前に私は本当にこの時計に触れていいのかわからなくなった。
触れたら、雪のようにさぁーっと溶けて消えてしまいそうで怖かった。
けれど、どうしても、付けてみたくなって、そっと手にとった。
金属製だから重みがあるのだと思って持ち上げてみたが、そのあまりの軽さにびっくりした。
金属の冷たさが指先に広がる。
華奢なバンド部分をたどり、プュシュボタンを押して開いた。
最初のコメントを投稿しよう!