自己紹介

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《2》  ーー昼休み。  虎崎は一人、屋上で昼食を食べていた。  今朝コンビニで買ったサンドイッチを食べていた。  黙々と咀嚼しながら、朝の出来事を虎崎は思い出す。  ーー朝っぱらから嫌な思いをした。 「へぇ〜、そんな事があったんだぁ」 「は?」  声の主の方を振り向くと、兎美が立っていた。  弁当箱を二つ持つ兎美が。 「そんなサンドイッチばっかり食べてたら、身体壊すよ? ホラ、君の分もお弁当作って来たから、一緒に食べよう」 「…………」  無言で立ち上がり、そそそのまま、兎美の横を通り過ぎようとした。 「あら? どうかしたの? ひょっとして、私のような美少女と一緒にご飯食べるのが恥ずかしいのかしら?」  ーー確かに美少女だとは思うが…… 「そんな訳ねぇだろアホ。ただ急にトイレに行きたくなっただけだ。自惚れんじゃねぇよタコ」 「まぁ、本当に私の事を美少女とか思ってくれているの!? 嬉しい!」 「話聞いてたか!? 誰が言ったんだよそんなバカみたいな事!」 「わよ? よーく、ね」 「なるほど、ただテメェがバカなだけか」 「フフフ、そうかもね。でも嘘をつくのはいけないわね」 「あぁ? 何がだ」 「トイレーー別に行きたくないんでしょう? 私が来たのが面倒だから、中庭にでも行くつもりだったんでしょう? これもわよ」  ーーあれ? 今オレ、声に出してたか?  と疑問に思う虎崎。 「出していたわよ。それはもう、大きな声で」 「はぁ?」  ここでたらは違和感を抱く。  虎崎はまるでーーを味わった。  ーーまさか、な……  虎崎は、ある一つの仮説を思い付いたのだが、そんな訳ないよな……と、その仮説をすぐ様消去した。  もし、であるならばらは虎崎よりも、人間の闇に触れている事になる。  そんな人間がいる筈がない。  ありえない。  それが虎崎のに対する答えだった。 「……んねん、外れ」 「あぁ? 何か言ったか?」 「いいえ何も。さぁ、些細な事は気にせず、私のお弁当をーー」 「いらねぇから帰れ。オレはお前と食いたくねぇ」  はっきりと言い放った虎崎。  近付く者には容赦はしない。 「サンドイッチが不味くなるから、一刻も早くどっか行け」 「嫌よ」  兎美も即答だった。 「私にとって、どこかへ行く理由が無いもの。だからどこかへ行く気はないわ。私はーー」  彼女は続ける。 「虎崎五太郎くんーーあなたと一緒に食べたいの」  顔をしかめる虎崎。 「オレはお前と食べたくないと言っている」 「私はあなたと食べたいと言っているの」  譲るつもりの無い二人。  虎崎は言う。 「どっかに行く理由がないって……教室のアホ共と仲良く食べりゃあ良いだろ? 今それをしとかねぇと、後々ぼっちになっちまうぞ?」 「あなたがいるじゃない」 「あ?」  虎崎にとって、それは想定していない言葉だった。  確かに彼女は虎崎の異質さを知らない。  知りはしないが、虎崎の野蛮さ、危険さは知っている。  普通の人ならば、関わるどころか近寄る事すらしないだろう。  しかし、彼女は言うーー 「聞こえなかった? もう一度言うわよーー私はぼっちにはならない……  ね」 「……お前はアホなのか?」  溜め息を吐き。  ここで虎崎は決意する。  これ以上、自分に近付かせる訳にはいかない。 「お前にオレの秘密を教えてやるよ。それを見て尚、オレから離れない人間なら、一緒にご飯食ってやる」 「うーん……別に良いけど、私その事」 「言ったな?」  承諾をもらった瞬間、虎崎は勝ったと思った。  過去15年間ーー  虎崎の真の異質さを垣間見て、彼から離れなかった人物は一人もいないのだから。  ーーきっとこいつも同じだ。  真の異質さーーボールペンで手に穴を開けるレベルではなく、虎崎は今回、常人では絶対出来ないであろう行為を見せるつもりなのだ。  を。 「見てろ」 「はーい」  屋上ーー虎崎は走り出す。  全力で。  そして、転落防止の為のフェンスを飛び越える程のジャンプを見せる。  そのフェンスの向こう側は当然、空中である。  浮力を失った彼の身体は当然、重量に逆らえる事なく落下を始める。  飛び降り自殺ーー  そう思われても不思議ではないその光景を見た愛は…… 「あらまぁ」  と、驚くどころかーー。  そんな兎美の表情を。  落下しながら虎崎は見ていた。 「お前は……何者だ?」  ーー知りたかったら放課後、生徒指導室に来なさい。そこで教えてあげるわ。  そんな声が、突然虎崎の頭の中に流れ込んできた、その時……  虎崎の身体は地面に叩き付けられた。  その衝撃で首の骨は折れ、腰の骨は肉を突き破り、膝は曲がってはいけない方向へ折れ曲がり、五太郎の周辺は大量の血が流れている。  しかし、それも束の間。  ゾンビと呼ばれる男ーー虎崎五太郎の超再生能力によって、瞬く間に元の身体へと戻った。 「やっぱ、骨が折れまくると痛いな」  屋上を見上げるも、そこに愛がいそうな気配はない。  あの女の正体に興味が湧いた。 「あんな先生の戯言なんざバックれるつもりでいたんだが……行ってやろうじゃねぇかーー  放課後ーー生徒指導室に」
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