自己紹介

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《3》  キーンカーンカーンコーン  終業のチャイムが鳴る。  虎崎は鞄を背負い、立ち上がる。 「……行ってやろうじゃねぇか」  足を運ぶ。  行き先は勿論ーー生徒指導室。  意気込み、その場所は向かおうとする虎崎。  しかし、そんな虎崎へ声を投げ掛ける人物がいたーーいや、人物 がいた。 「待ってくれ! 虎崎くん!」 「あぁ? 何だテメェらは」  その人物達ーー男女2名の内、男の方が続ける。 「今日迄に提出する筈のプリント。虎崎くんのだけまだ提出されてないんだ。提出してくれないか?」 「はぁ? プリント? 何の事だよ。んなもん知らねぇよ。待ってねぇから帰れカス」  ギロリと睨み付けながら、撃退を試みる虎崎。  常人ならば怖気付いて逃げ出す所なのだがーー  この男は違った。 「おいおい、冗談はよしてくれ。君もその授業には参加していた筈だろう? ボクはしっかりと見ていたよ。君がそのプリントを貰っていた所を」  ガッツリ歯向かったのだ。 「……お前、大した度胸してんじゃねぇか。どうやら、どつかれたいみたいだな?」  歯向かわれた事にカチンときたのか、戦闘体勢に入る虎崎。  暴力を振るう、脳筋思考がフル回転を始める……  が。 「何を言っているんだい? ボクはどつかれたい等とは言っていない、ただプリントを出してくれと頼んでいるだけだ。何故そういう思考になるんだい?」 「あぁ?」  ここで、周囲の学生達が騒つく。 「あいつら、あの虎崎にたてついてるぞ?」 「マジかよ……死にたいのか?」 「虎崎の奴……あちこちの不良グループを潰しまくってるヤバい奴だろう?」 「しかも虎崎って、ゾンビって噂が……」 「えぇ? 何それ? 怖い」  虎崎についてドンドンと話が広がっていく。  それが虎崎には耳障りであった。 「うるせぇんだよテメェら、黙れ」  その一言で外野は一気に沈黙する。  そして、その全ての怒りの矛先が全て目の前の男に向けられる。 「ぶっ潰す、カスが!」  その男に、虎崎は拳を振るおうとする。  しかしーー 「君達! 今の影口はなんだ! 虎崎くんに失礼だとは思わないのか!!」  と、その男は後ろへ振り向き、怒鳴った。  まるで虎崎を庇うかのように。  「え?」と目を丸くする外野達。  当然、虎崎も目を見開く。 「影でコソコソ言うのなら、本人がいない所で言えばいい!! 本人に聞こえるように言うんじゃない!! 愚か者!! 失礼にも程があるぞ!!」  本気で怒っているその男。  虎崎は、先程振るおうと思っていた拳を自然に下ろしていた。  虎崎はそんな自分に驚く。  おかしいぞ? だってオレは、目の前のコイツを殴ろうとした筈なのにーーなのに何故かオレはーー  コイツを殴りたいと思えなくなった。  通常、こういったはみ出した事を言う人物は嫌われる。  人は、大抵の場合、自分と違う考え方の他人を嫌うからだ。  嫌ってーー敵とみなす。  しかし、その男の場合は違った。 「悪かったよ委員長!」 「もう言わないから許してくれよ委員長!」 「虎崎くんごめんなさい」  と、。  。 「……虎崎くん、皆もこう言ってるから、許してやってくれないか?」  そう、その男は笑みを浮かべる。  虎崎には、その男がとても…… 「うるせぇよ……」 「ん?」 「オレが怒ってるのは、目の前のお前なんだよ!! あんなカス共の事なんざオレは初めから気にしてなかったんだよ!!」 「え? ボク? 何故?」 「あぁ!?」  これだけ怒鳴ろうと、口悪く話そうと、威圧しようとーーその男には。そんな感覚が今、虎崎を襲っている。 「……お前、バカなのか?」 「ううん、多分虎崎くんより頭良いと思うよ?」  と、にっこり答えるその男。 「それよりプリントを提出して貰えなきゃボクが困るんだよ。委員長としての面目丸潰れだ、だからお願い、適当でも良いから提出してくれないかい?」 「……委員長?」  虎崎は、何故かそのワードが気になった様子で……  その男は自分の胸をドンと叩いて「その通り!」と言った。 「もしかして、ボクの事を知らなかったのかな? なるほど、それなら頑なにプリントを提出しようとしない君の姿勢にも納得が行く! 知らない相手に、の中身を見せる訳にはいかないものな!」  あのプリント?  そんな意味深に言われても、虎崎は何の事だか分からない。  考える虎崎を他所に、その男は名乗りを始める。 「ボクの名前はーー犬凪護(イヌナギマモル)。このクラスの学級長さ、よろしく!」  笑って手を差し出してくる犬凪。  虎崎は危うく、その手を取ろうとしてしまうが、ギリギリの所でそれを回避。 「…………何も分かってねぇみたいだから、本気で忠告しておくーー  オレに関わるな。」  そういう虎崎に対し、犬凪は。 「君こそ何も分かっていないみたいだから言っておくーー。  君が勝手に決めるんじゃない。虎崎五太郎くん」  それを聞き、虎崎は舌打ちをして…… 「ったく……真田といい! お前といい! 何なんだよこの学校は!! 何なんだよお前らは!!」 「いや……ボクはただ君にプリントを……」 「うるせぇ!!  オレに近寄んな! オレに構うな! オレに話し掛けんな!!」  虎崎は息を切らす程、大声で叫んだ。  それによってーー彼はいつもの調子を取り戻す。 「……犬凪、つったか? お前」 「え、ああ……そうだが……」 「次話し掛けたらーー潰す。覚えとけ」 「しかしプリントが……」  そう犬凪が口を開いた瞬間ーー虎崎の手が犬凪の服を掴んだ。 「言ったろ? 潰すってーー  怪我しねぇ事を祈っとけ」 「え?」  そのまま、まるで野球のボールを投げるかのように……  犬凪を投げた。 「ぐあっ!」  猛スピードで教室に並ぶ椅子や机に次々とぶつかり、壁に激しくぶつかる形で、犬凪は止まった。  当然身体は傷だらけで気絶。  周囲は唖然。  改めて、虎崎の恐ろしさを目の当たりにしたクラスメイト達は誰も口を開こうとしなかった。 「こ、怖いですぅ……」  虎崎の視界の端、そんな声を出すのは犬凪と共に現れた女の子だった。 「お前……あいつの友達か?」 「ヒィっ!! いえっ、あの、その……わ、私達はただの……」 「ただの?」 「いいっいい委員長と副委員長のかかか……関係ですぅ!!」 「そうか……なら、目を覚ましたらあいつに伝えておいてくれ」  その女の子を睨み付け、こう続けた。 「二度と話し掛けるな……次はーー  この程度で済まないと思え。ってな」  女の子は返事をした。 「ひゃ、ひゃいっ!!」
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