自己紹介

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《6》  犬凪が回復した為、羊沢と2人が下校している。  どうやら犬凪は、羊沢に約束の件を伝えた様子でーー 「ええええぇぇぇえええ!? あの虎崎くんを改心させる約束をしてるの!?」  羊沢、大絶叫だった。 「無理だって! 無理無理!! 絶対無理だよ!! あんな目をしている人が改心なんてする訳が無いよ! 無理無理だよ! 無理だってば!」 「凄い反応、真奈美、面白いな」  そんな彼女の反応を楽しむ犬凪。 「ほぇー……私も大概運が悪いけど、護くんも大概だね……」 「そうかな? 真奈美には運の良さでは負けないと思うよ?」 「いやいやいや……その約束を真田先生に頼まれた時点で私のより遥か上を行っているよ……  精々私の不幸なんて、くじで副委員長の当たりくじ引いちゃうくらいなんだし」 「そうかなぁ?」 「そうだよ。護くんの方が100倍……っきゃ!!」  ガシャァン!! という音がした。どうやら植木鉢がマンションの上から落下したようだ。  犬凪が引き寄せなければ間違いなく、羊沢の頭に直撃していた。 「!!!!???」  随分と高い所から落ちたのだろう。植木鉢は割れてぐちゃぐちゃになっていた。  顔が真っ青になり、口を引き攣る羊沢。 「こんな目にあっても、ボクの方が運が悪いと言いたいのかな?」 「うー……どっこいどっこいかも」 「ハハハ、どっこいどっこいなのか」  大きな溜息を吐く羊沢。 「早く治ってくれないかなぁ……私のこの……」 「ハハハ、急には無理でしょ」 「……他人事だと思って。コレ、早く治さないと本当に死んじゃうかも……」 「ハハハ、まっさかぁ〜。面白い事言うねぇ」  その瞬間、ブッブゥーと大きなクラクションが鳴る。  気が付くのが送れた犬凪と羊沢。  大きなトラックが、猛スピードで羊沢の横をギリギリの隙間で通り過ぎて行った。 「ほ、ほほほほほほ、ほら……今のみたいなのでし、ししし死んでしまうかもしれないよ? わ、私……」  ガクガクブルブルと震える羊沢。  これには流石の犬凪も苦笑い。 「でも、これはある意味運が良いとも言えるけどね……」  今の致命的なミスだと、轢かれている事が多いだろうし……、と犬凪は言おうと思ったが、彼女の精神面を考慮して伝えるのをやめた。 「でもさ、虎崎くんの改心は、きっと君の為にもなると思うよ?」 「え? いきなり何? ならないでしょ、なったらそれこそ死期が近くなってーー」 「だって今彼が居たら、あんな危ない思いをさせないと思うんだけどなぁ」 「そ、そうかもしれないけど……」  羊沢がう〜っと唸っている。  彼女は想像した。  犬凪の言う様に、自分が虎崎と一緒に下校している所を……  以下想像ーー  並んで下校する羊沢と虎崎。 「ね、ねぇ……虎崎くん」 「…………」 「きょ、今日の学校楽しかったね……ハハ、ハ……」 「…………」 「アハハ……ねぇ、虎崎くんはどうだっ」 「さっきからピーピーピーピーうるせぇよカス。たまたま帰り道が同じだから一緒に帰ってるだけだろうが、話し掛けんなカス……その下手糞なニヤけ面引っ張り回すぞ」  ーー以下現実。 「ムリィィイイイイ!! 絶対無理! 無理無理無理無理!! あの沈黙が耐えられないし、虎崎くんの暴言にも耐えられない!!! ダメよ……ストレス死しちゃう! あんなの耐えなきゃいけないくらいなら、植木鉢に当たって流血する方がマシです!!」  全力で嫌がっている羊沢。  当然、先程の想像は犬凪には伝わっていないので、いきなり涙目になりながら拒否をする彼女に、犬凪は驚きを隠せない。 「えぇ……一体何を想像したの?」 「やっぱり護くんが良いよぉ〜」 「そう思ってくれるのはありがたいんだけど……」  その時、2人の横を一台の車が通った。  車のタイヤに跳ね上げられた小石が宙を舞う。  そしてその小石が羊沢の頭に直撃。 「痛い!」  かなり痛かったのか、羊沢は頭を押さえ座り込んだ。  その様子を見て、犬凪は苦笑。  ーー残念ながら、ボクでは、守ってあげられないからなぁ…… 「うぇ〜ん、痛いよぉ……」 「ほら、真奈美。元気出して」  手を差し出す犬凪。  羊沢はその手を取り、立ち上がる。 「ありがとう、護くん……」 「良いかい真奈美。ボクの考えだと虎崎くんは必ず、君の隣に相応しい男になる筈だよ」 「……どこにそんな根拠があるのよ……」 「根拠はこれから見せるから」 「これから?」  「うん」と犬凪は頷き、続ける。 「彼はーー虎崎くんはなんだと思う……だけれど、虎崎くんは、真奈美の時よりも更に深い所に闇がある。難しいと思う……」 「ほらっ! 無理なんじゃん!!」 「だけど、真奈美が今こうしてーーが、という根拠にもなるような気がするんだ」 「な、何よそれ……」 「良いと思うよ? 不幸体質で事故や事件に巻き込まれやすい真奈美を、驚異の再生能力で身体を張って守る虎崎くんーー  良いコンビだと思うけどなぁ」  腕を組み、首を傾げる羊沢。 「んー……でも確かに、そう言われれば……そういう風に思えなくもない、ような気も……」 「だろ!? 君と虎崎くんは横に並ぶべきなんだよ!」 「でも、もし助けてくれとしても……虎崎くん、『迷惑ばっかかけやがって、オレがお前をコロスぞ』とか怒りそうなんだけれど……」  「それは多分心配ないと思うよ」犬凪は即答した。 「え? 何でそう思うの?」 「いや……それについては根拠がないんだけど、何となく」  頭に右手を当て、苦笑いの犬凪。  それに対して溜息をつく羊沢。 「何となくって……ダメじゃん……」 「まぁ何にせよ、虎崎くんを改心させないと話にもならないって事だね」 「……護くんは、何故危険を犯してまでーー  ?」  その疑問をぶつけられ、犬凪は笑った。 「そりゃ、君と虎崎くんが横に並んでくれたら良いなというのもあるけど、何よりーー  彼と友達になれたら、高校生活楽しそうだなぁって思ってさ」  それは、満面の笑みだった。  羊沢は正直ーー「そんな理由なの!?」とツッコミたくなったが……しかしこれがーー  これが、犬凪護という男なのだ。 「ふーん、まぁ、がんばってね。護くん」 「ああ! 頑張る!」  犬凪は笑顔で決意を述べる。 「虎崎くん! 必ず君と青春してみせる! 覚悟しておけよ!!」  そして羊沢は、そんな彼を見ながら、を思い出していたのだった。
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