虎崎五太郎に青春を

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《1》  前回のあらすじーー  虎崎と兎美は友達となった。  翌日ーー  教室のドアを開ける虎崎。 「ん?」  教室内、一箇所に人が集まっている。  わんさか集まっている。  何だありゃ? 虎崎は思った。 「真ん中にいるのはクラス委員長よ」  そう声を掛けて来たのは…… 「兎美……」  昨日友達になった兎美愛だった。 「朝っぱらから人の心を読みやがったな?」 「いいえ、呼んでないわよ。あなたの視線が思いっきり、あの人だかりに向いていたから、恐らく『何だありゃ?』と思っているだろうなと思っただけよ」 「…………オレ、そんなアレ見てた?」 「見てた」 「ふーん……因みに、あの中心にいるのは誰だって?」 「クラス委員長ーー確か名前は……」 「犬凪護……だろ?」  兎美が思い出す前に、虎崎はその名を述べた。  何故名前がスッと出て来たのかと言うと、彼はーー昨日犬凪と揉めているからだ。 「揉めたのね、それでか……」 「おい、今度こそオレの心読んだだろ」 「読まれてマズい事ばっかり考えてるから悪いのよー」  ニヤリと笑う兎美。 「ったく……」  虎崎は大きなため息を吐き、鞄を机の上に置いた。  鞄の中の教科書やノートを机の中へ移している。 「あ、今エッチな事考えてたでしょ?」 「はぁ!? 考えてねぇよ!! ふざけた事抜かすな! ブッ殺すぞテメェ!!」  不意にそんな冗談を兎美が言う。虎崎は、勢いでその冗談を叫ぶように訂正した。  当然、叫んだ為…… 「虎崎くんだ……」 「怖い……」 「虎崎くんがまた怒鳴ってる」 「あれ兎美さんじゃない?」 「兎美さん可哀想……」  クラス委員長に向けられていた視線が全て、二人に注がれる。  兎美が虎崎以上の化け物である事を知らないクラスメイト達は当然、この状況だとーー  虎崎が兎美を恫喝しているように見える。  そして当の本人、兎美が涙目になるという演技を見せているのだから尚更である。 「おまっ……!! やりやがったなテメェ! カマトトぶりやがって!!」  当たり前だが、虎崎は怒る。 「いやん、怖いわ!」  虎崎の怒りに怯む事なく、彼女は演技を続ける。無駄に活躍するハイレベルな演技力! 「テメェ……」 「な、何!? そんな目で私を見て! 私を殴るつもりなのね!? ヤメテー!!」 「ほーーん……とうに殴られてぇみたいだなぁ?」  虎崎は冗談と分かっているが故に、本気で手を出そうとは思っていないが、彼は彼なりに嵌められて腹が立っている。  殴るフリだけは見せて、少しビビらしてやろうーー  そう思い、拳を握りしめるフリをする。  そんな時ーー 「やめろ! 虎崎くん!! ダメだ!!」  と、クラス委員長犬凪が虎崎の腕にしがみ付いた。 「暴力で訴えるのは良くない! これ以上人を殴ってはいけないんだ!!」 「あぁ!? またテメェか!!」 「良いから早くその手を下ろしなさい!!」 「…………」  そもそも殴る気はなかった虎崎。  フリで握り締めた拳にしがみ付く犬凪。  そして目の前でニヤニヤとその光景を見つめる兎美。  こういう状況は初めてな虎崎はどうすればいいのか分からない。 「分かった! こうなってしまっては仕方がない!! どうしてもその子を殴るというのであればーーボクを殴れ!!」  犬凪がそう提案し始めた。 「はぁ? 何でオレがテメェを!?」 「その華奢な身体の女の子を殴ってしまえば、その子は死んでしまうかもしれない!! しかし! ボクなら死ぬ事はない筈だ!! だからボクを殴れ! さぁ! さぁさぁさぁさぁさぁさぁ!!!」 「さぁさぁさぁさぁ、うるせぇよ!! 本当に殴るぞテメェ!!」  今度は本格的に殴ろうと決め、しがみ付かれているのとは逆の手を握り締めた。  兎美は心を読み、彼の本気具合を理解。 「あらまぁ……」  苦笑いを浮かべる。 「死なねぇ程度に殴ってやるから! 歯ぁ、食いしばれ!!」  覚悟を決め歯を食いしばる犬凪。  虎崎も殴ろうとアクションを見せる。  そこへーー 「だ、だめぇー!!」  その、殴ろうと拳を握り締めていた腕に掴みかかるもう一人の姿が……  その姿はーー 「ダメだ真奈美!!」  クラスの副委員長ーー羊沢真奈美だった。  犬凪は続けて叫ぶ。 「お前がそんな事をしたらーー」  羊沢は小さい身体故にジャンプして、腕に掴みかかろうとする。  虎崎はそんな羊沢の存在を知り、驚く。  驚いた羊沢は、無意識にその手を引っ込めようとする。  そして、ーー 「ブキャッ!!」  その。  鼻血を出し、仰向けに倒れそうになる羊沢。  いくら有象無象に興味のない兎美が、その申し訳なさ故、そんな彼女を受け止める。 「だ、大丈夫……?」 「ほぇぇ…………」  苦笑いの兎美。  失神している羊沢。 「ま、真奈美!!」  駆け寄る犬凪。 「何であんな事を!! お前なら事だろう!?」 「あ? こうなるって……」 「分かりきっていた?」  に違和感を覚えた二人。  直ぐ様、兎美は犬凪の心を読む。 「え?」  兎美は驚きを隠せず、目を見開いた。 「と、とりあえず保健室へ!」 「オ、オレが運んでいく」 「え? 虎崎くん……どうして?」 「オレは……これはオレの中でのルール違反だからだよ」  そう言って虎崎は、倒れている羊沢を、優しくお姫様抱っこした。 「虎崎くん……」  突然の虎崎の行動に、犬凪だけでなく、クラスメイト達も騒つく。 「え? 何? どういう事?」 「あの2人って出来てるの?」 「そういう風には見えなかったけど……」 「何かルールがどうとか言ってなかった?」 「ルール? 何それ?」  そんな騒つきを背に、羊沢をお姫様抱っこしている虎崎と、付き添いの犬凪は保健室へと去って行った。  渦中の中にいた人物で教室に残っているのは兎美のみ。 「何なの? って……」  羊沢の不幸に気が付いた彼女は、1人思考を巡らせている。 「あの子も……ひょっとしたら……」
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