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《3》
「あぁ〜、そこでいけそうとか思っちゃうんだぁ〜……甘いなぁーー
犬凪護くん」
そう呟くのは兎美だった。
彼女は最初から話を聞いていたのだ。
虎崎と犬凪が保健室から出て来た時から、2人のやり取りをーー
全て聴いていたのだ。
ーー読心能力で。
ーー教室から。
「甘いなぁ……犬凪くんは。問題はそこじゃないのにねぇ?」
兎美は知っている。
虎崎小太郎ーー彼が、真の意味で青春をしない、友達を作らない理由を……
心を読んで知っている。
「その程度の認識で、彼と友達になろうとしてるのなら大間違いーー
大怪我するだけだね。
物理的に」
兎美はそう笑みを浮かべた。
そんな彼女の様子を、訝しげに見ている人物が一人。
「アイツ何で1人で笑ってんの? キモ……」
入学式の日、兎美に話し掛け、少し痛い目に合った女子生徒ーー
蛇城白子。
蛇城は念じる。
入学式の時の事、忘れないから……せっかく友達になってやろうと思ったのに、それを踏みにじって……絶対後悔させてやるんだから……覚悟してなさい。
そう、彼女の中では怨念のようなものが渦巻いていた。
ーーなぁーんか、勝手にメラメラと対抗心燃やす変なのがいるわねぇ。
兎美はそれに気付いていた。
蛇城の心を読み、気付いているのだが、相手にしていない。
する迄もないーーとすら思っている。
「アンタみたいな有象無象に出来る事なんて知れてるでしょうに……」
今、兎美が興味を持っているのは4人ーー
ゾンビと呼ばれる少年ーー虎崎小太郎。
青春委員長ーー犬凪護。
不幸体質と噂の少女ーー羊沢真奈美。
熱血筋肉教師ーー真田幸成。
この4人だけだ。
しかしこれは非常に珍しい事である。
『心を読める力』によって、人間の闇を知り、意図的に他人と関わろうとしない彼女。
小学校の高学年から、中学校の間ーー信頼出来た人間がたった1人という彼女。
そんな彼女が、一度に4人もの人間に興味を持つ事は非常に珍しい事なのである。
興味を持った上で、品定めをしている。
彼女ーー兎美愛が、ストレスを感じずに一緒にいられる人間かどうかを……
兎美は中学時代、そのたった1人を信じて、痛い目にあっている。それ故にーー
彼女の品定めは厳しい。
ーー口だけでは何とでも言えるもの……それにちゃーんと、行動が伴うかどうかが大切な基準なのよねぇ……
ね? そうでしょ? 真田先生と、犬凪くん?
真田と犬凪は今、その品定めを受けており、除外対象間近となっている。
虎崎の真意を見抜けず、ふわふわと安堵している脳みそお花畑の青春委員長ーー犬凪と。
あろう事か、そんな犬凪を虎崎の青春謳歌への切り札として添えたバカな教師ーー真田を。
有象無象に降格させようとしている。
ーー私の力にも気がついていないみたいだし? 私が関わる事もなさそうね……
兎美の品定めは続く……
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