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《4》
ガラリと教室のドアが開く。
虎崎が帰って来た。
騒つく教室内。
ドカッと椅子に座る虎崎。
視線を送るクラスメイト達に先ずはーー
「ジロジロ見てんじゃねぇよカス共」
と殺気満々で言い放つ。
クラスメイト達は必然的に目を逸らす。
「ケッ、カス共が……」
そんな彼の……
『どうだった? 羊沢さん、大丈夫そう?』
脳内に突然の声。
「うぉっ!!」
突然の事にびっくりし、立ち上がる。
物音を立てた為、クラスメイト達が再度振り向く。
視線を浴びる虎崎。
「え? いや、これは……あの……」
珍しく彼があたふたしている。
しかし、直ぐに素に戻る。
「あんだよテメェら、喧嘩売ってんのかゴラ」
これまた殺気満々。
だが、物音を立てたのは虎崎本人であり、理不尽な脅しではあった。
対して、そんな光景を見ていた兎美は笑いを堪えるのであった。
「ぷっ、プププ……め、めっちゃビックリしてた……プププ、わ、笑っちゃダメよ私……が、我慢しないと……」
「あの野郎〜」
そんな兎美の姿を見て何か言ってやろうと、近付こうとした。
その時再び脳内に声。
『こっちこないでね』
「あ?」
『今、クラスメイト達の中では、私とアナタは先程揉め事をした関係……にも、関わらず、アナタが今ここで私に近寄って話し掛けたらーー疑われる可能性がある』
「なるほどな」
『声にも出しちゃダメ。心の中でアナタが思えば、私が読み取るから……心の中で喋って……』
「あ、はい」
『だから声に出しちゃダメだってば!』
「あ……」
『りょ、了解……』
『うん、よく出来ました』
まるで子供を褒めるかのように、テレパシーを送る兎美だった。
『て言うか、いきなりテレパシーすんなよ! ビックリするだろうが!!』
『あら? ビックリした? ごめんなさい』
『ビックリするに決まってんだろ!? 急に頭の中に声がするんだからよぉ!』
『まぁ、ビックリすると思ってテレパったから良いんだけどね。予想通りの反応ありがとう』
「…………」
『アイツ、殴ってやろうかな……』
『聞こえてるわよ?』
『知ってる……分かってて言った』
『ったく……で、ビックリさせる為だけにテレパシー使って話し掛けてきたのか?』
『ううん』
『じゃあ、何の用だ?』
ここで兎美が本題を話す。
『犬凪くんの事をーー今、どう思ってる?』
『どうって……委員長だろ?』
『そうじゃなく、彼はーー君に青春させれそう?』
『あー……そういう意味か……ムリだろ。あいつじゃ……っていうか、あいつ以外でもムリだけどな。オレを青春させるなんざ』
『ふぅん……どうして?』
『どうしてって……お前なら言わずとも心を読んで知ってんだろ? その理由』
『まぁね。でも、アナタの口から聞きたいわ』
『今、口で喋ってねぇけどな』
『あら、そうだったわね。ではまた次回聞かせてね』
『お、おう……。話はそれだけか?』
『後もう一つ聞きたいわ』
『何だよ』
『虎崎くん、あなたはーー
私や、あの羊沢さんの事をどう思ってる?」
『え?』
『答えて、正直に』
解答に困る虎崎。
『お前については、初めてオレより凄え化け物に出会ってーー何つーかこう、仲間、みたいなもの感じてる……正直言うとな』
『ありがと。なら……羊沢さんについては?』
『そういやお前、あの女が不幸体質って事知ってたのか?』
『いいえ、それを知ったのはさっきよ。犬凪くんがその言葉を口にしてから知ったわ。で、その後すぐ読んでみたらやっぱりあの子もこちら側だったわ。あの子も中々の体験してるわ』
『なるほどなぁ……』
『話が逸れたわね、もう一度聞くわ。あなたは、羊沢さんについてどう思ってる?』
少し悩み、虎崎は答える。
『…………例えばさぁ』
『うん』
『オレらって、何もしてない時でも力の事考えたりするじゃんーー無意識に』
『うん、そうね。私無意識に人の心読んだりしちゃうもの。暇潰し感覚に』
『暇潰しで人の心読むなよ……まぁでも、お前が暇潰しで読んだ時にはーー
羊沢に不幸体質がある事、気付かなかったんだよな?』
『……ええ、クラス副委員長のクジを引き当てた時、やっぱり私は不幸だ……みたいな事を思ってたみたいだけれど、不幸体質とまでは思ってなかったわ。他にも数回彼女の心を読んだけれど、一度も気付けなかった』
『それって凄くねぇか?』
『え?』
『だってさぁ、考えてもみろよ。人を巻き込むかもしれない程の不幸だぞ? それに、オレが当てようともしていない裏拳をくらう程の不幸だぞ? 普通に過ごしていても、少しはーー椅子が壊れるかも、とか、授業中前の人が倒れてくるかも、とかビビるもんじゃねぇか?』
『えーっと……確かに……そうかもしれないわね』
『だろ? なのに、お前が悟れないレベルでビビってねぇんだ。ヤバいだろ?』
『……そうね……言われてみればそうだわ』
『だろ? そんでもって極め付けが今日の裏拳だ。普通、不幸体質を持ってるって分かっててーー
犬凪を守る為オレに向かって来るか?』
『なるほど……』
『でもそんな羊沢も昔は……』
『巻き込みたくないから、人を近付けさせようとしていなかったーーのよね』
『そう。だが今はクラス副委員長にまでなって、人気者の委員長ーー犬凪の横で、集まる人達の中心に居る……これって本当に凄え事だと思うんだよ』
『え? という事は……その凄いって言うのは、犬凪くんの事なの?』
『まぁ、そうだな。不幸体質を日常的に気にしないってレベルまで彼女を変えたっていう事実は本当に凄いと思う……認めたくないけど』
『なるほど……その発想は、私はしなかったわね』
『だろ? で、羊沢をどう思うかなんだが……』
ここでようやく、虎崎は明確な返答をする。
『そこまで変われた彼女を見てるとーー
何か、自分も変われるかもしれないって思わない事もない』
兎美は少し驚いた様な表情を見せる。
虎崎は続ける。
『認めたくねぇけど……犬凪に付いて行けば、オレもーーお前ですら、変われそうな気がするんだよ。ムカつくけどな』
『それは……』
『ああ、ムリだとは思う。もちろんオレ自身も、ムリだとは思ってる、けどーー
犬凪なら、オレの、本当の意味での青春を送れない理由を知っても、支えてくれそうな……そんな気がするんだよ』
『お前も含めてな』虎崎はそう言った。
『…………私も、認識が悪かったわね……』
『え?』
『ううん、何でもないわ。とにかく、あなたは今、少しはーー犬凪を期待しているのね?』
『期待……って言葉が正しいのかは分らねぇけど……まぁ、少しはしてる。少しだけな、ほーんの少し、3ミリくらいは』
『そう』
兎美は目を閉じ、少し微笑んだ。
そして、最後にこう一言テレパシーにて伝えた。
『虎崎くん』
『何だよ?』
『青春……出来ると良いわね』
そこでテレパシーは途切れたのだった。
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