虎崎五太郎に青春を

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《6》 「真奈美! 目を覚ましたのか!?」  虎崎が去った後。  保健室の扉を勢い良く開け、犬凪が現れる。 「護くん……うん、もうお目目パッチリ」 「大丈夫か!? 鼻、痛くないか!?」 「ちょっと痛い……かな」 「そうか……昼の授業も休んだ方が……」 「ううん、昼からは出るよ。心配してくれてありがとう」 「分かった……無理はするなよ」 「うん」  満面の笑みの羊沢。  その表情を見た犬凪はホッと、胸を撫で下ろした。 「護くんが来る前に、虎崎くんが来たよ」 「え!?」  驚く犬凪。 「どういう事だ!? ……何を話したんだい!?」 「悪かったって」 「え?」 「裏拳して悪かったって、謝られた。それに……」 「それに?」 「このベット柵がさ……」  そう言いながら、ベット柵に触れる羊沢。 「ガコンって外れたんだよ。それでね、私、ベットから落ちそうになったんだ」 「えぇ……そこで出たんだ、不幸体質……」 「うん、それでね。そんな落ちそうになった私を助けてくれたの……虎崎くん」 「へぇ〜」  嬉しそうな表情の犬凪。  羊沢も、興奮気味に話す。 「凄いスピードで私の背後に回ってさ、背中を……こう……優しく支えてくれる感じで……」 「因みにさ、君が倒れた時にここまで連れて来てくれたのも、虎崎くんだよ」 「えぇ!?」 「お姫様抱っこで、ここまで」 「お姫様抱っこ!?」 「うん、こんな感じで優しく運んでたよ」 「へ、へぇぇ……そ、そうなんだぁ……」  複雑な心境の羊沢だった。  「でも……」そんな羊沢は言う。 「護くんが言っていた事……ちょっと分かった気がする……」 「ボクが言った事?」 「虎崎くんは、本当は優しい人間なのかもしれないーーって言った事……今なら何となくわかる気がする……」 「ハハハ、そうだろう」 「うん……彼は似てるんだーー  ……」  昔を思い出す羊沢。 「自分の不幸体質に絶望して、明日生きれるのか不安になって……自分どころか他人まで不幸に巻き込んでからは、他人と話す事も怖くなっていたーーあの時の自分に……」 「そうだね……似てるんだよーーあの時の君と虎崎くんは……」 「を知っていたから……真田先生はーー  ?」 「……恐らくな」 「私もそう思っちゃった……  私は……私なら、今の虎崎くんの気持ちが分かる気がするの! だから私も手伝うよ」 「真奈美……」 「……護くんが私にしてくれたように……私も、虎崎くんに出来たらなと思うから……だから……」 「だが、君には不幸体質がある。危険な目にも沢山合うかもしれないから……ボクとしてはあまり進める事は出来ないけれど……」 「その不幸体質については、虎崎くんに守って貰えるんでしょ? 前に護くんが言ってたじゃん」 「そ、それはそうだけれど……」 「分かってるよ、護くんが私を危険な目に合わせたくないっていう気持ちも……それはありがたい。けれどーー君に、私も、」 「…………」 「分かってる……こうやって事も、だからかもしれないけれど……それでも……それでも私はーー  虎崎くんと関わりたい!!」 「…………」  考える犬凪。  思考を巡らせる。  大丈夫か? 今の、あの虎崎くんに真奈美を関わらせるのは、とても危険な行為じゃないのか? それこそ、命を失う危険すら可能性としてある……  しかし逆にーー  彼女と共にやればーー1を、生み出せるかもしれない……  さぁ、どうする? 「ねぇ、護くん? のあなたも、? でもあなたは、、私の為に動いてくれたよね? そんなあなたにーー私は心から、感謝しているのよ。だから私も……」  そう言う羊沢の目を、じっと見つめる犬凪。 「本気……みたいだね」 「うん」 「分かった、一緒にやろう」  満面の笑みになる羊沢。 「ありがとう! 護くん!」 「その代わり……危ない事は、絶対にさせないからな」 「うん、分かってる!」  こうして……  犬凪の『虎崎くんに青春を計画』に、羊沢真奈美も、参加する事が決まったのであった。
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