虎崎五太郎という男

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《2》  キーンカーンカーンコーンのチャイムと同時、教室のドアが開く。 「おはよう」  そう低い声で挨拶をするのは、このクラスの担任。  ムッキムキの筋肉質な体、強面の顔。そして手には時代錯誤な木刀が握り締められている。  見た目から、体罰万歳のオーラが漂っている。  しかしその認識は間違いであり、その木刀はただ一人の為だけに握り締められている事が分かる。  五太郎の名は当然、化ノ森学園の教師達の耳にも入っており、それに対する対応策というのが、木刀の使用……そして、この担任ーー  真田幸成(サナダユキナリ)を配属する事なのである。 「ん? 早くも机の位置が変わっているな?」  言わずもがな、先程虎崎が蹴り飛ばした机だ。  従って、彼の前には机がない。  誰がこの暴挙に出たのかは一目瞭然である。 「お前か?」  ツカツカと歩いて行き、対面。 「お前がやったのか?」 「あぁ? だったら文句あんのか?」 「元に戻せ」 「はぁ? 何でオレが? 元に戻すつもりなら最初から蹴ってねぇよ」 「もう一度言うーー元に戻せ」 「やなこった」  虎崎がそう言った時だった。  担任である真田が、木刀を虎崎の顔面向けて振るった。  しかし虎崎は、それを容易く左手で受け止める。 「危ないだろ? 顔に当たってたらどうするつもりだったんだ?」 「当てるつもりだったから、どうって事はない」 「野蛮な先生だなぁ、ふざけてんのか?」 「ふざけているつもりなどないよ、虎崎五太郎」 「へぇ、自己紹介してもないのに、オレの事知ってくれてんのか。手間が省けて良かったよ。けどな先生、オレって気が長いからこんな事じゃ怒らねぇけどーー  次はねぇぞ?」  凄まじい殺気を放つ虎崎。  しかし真田は怖気付く事なく。 「噂通りの男だ」  そう言って、虎崎の前に机を戻した。 「次回から、戻すつもりが無いのなら机を蹴るな。分かったか?」 「…………」 「返事をしろ」 「へーい」  背を向け、教壇へと再度足を運ぶ真田。  場の雰囲気は最悪。  しかし、後に彼もまた、虎崎の願いを打ち砕く、大きな存在になるのだった。
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