死牛

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《3》  翌日ーー  虎崎は朝早く学校へ向かっていた。 「ったく、何でオレが……」  ブツブツと文句を言いながら。  兎美が訪問し、話をしたその後、直ぐに真田から電話がかかって来たのだ。  その内容は以下の通り。  プルルルルプルルルルプルルルルガチャ。 「はい、もしもし」 『虎崎か? 真田だ。お前なぁ、勝手に帰りやがって。バカなのか? いや、まぁ、あの時止めなかったオレも悪いんだけどよぉ。それでも帰るのはやめとけよな、これからはああいう時は校内に逃げろ。良いか?』 「うざっ」 『おいおいウザいとか言うな。目上の者に向かって。まぁ、こんな事はどうでも良いな、本題に入るぞ』 「本題? 何だよ……」 『お前、明日何するか知ってるか?』 「明日? 何かあんのか?」 『お前なぁ……やっぱりか……明日はお前が学級当番なんだ、頼むぞ』 「はぁ? 何だそりゃ? 何すりゃ良いんだよ」 『ふむ、簡単に言うと、黒板消したりとか掃除したりとか、あと、学級委員長の仕事を手伝ったり……とにかく、雑用だな』 「犬凪の手伝いだとぉ!?」 『お前も分かっただろ? あいつは良い奴なんだよ。だからお前も心を開いてやれ。お互い心を開かねぇと分からない事もあるから』 「……っち! 分かったよ」 『…………そうか、分かってくれたか……なら良いんだ。てな訳で、学級当番は朝、教室の掃除やら何やらで始まるから、8時に学校へ来い。そしたら、相方の当番の奴が色々教えてくれるからよ』 「相方? 相方って誰だよ!!」 『気になるか?』 「そ、そりゃまぁ……」 『ククク、ならば教えない。明日を楽しみにしておけ……』  ブツッ、ツーツーツー……  というやり取りがあった訳だ。  当番である為、虎崎は朝早く学校へ向かっている。 「真田の野郎……相方が誰か、ぐらい教えてくれりゃあ良いだろうが……」  嫌な予感がした。 「もしかして犬凪じゃねぇだろうな……」  そんな不安を抱きつつ、学校へ到着。  玄関を通り抜け、下駄箱へ。  するとー 「あ」 「え?」  たまたま、そのと出会した。 「お前が……もう1人の当番なのか?」  虎崎は言う。  その人物は答える。 「う、うん……そうだよ」 「お前だったのかーー  羊沢」  まさかの羊沢だった。  予想外の展開だった為、虎崎は少し面食らった。  羊沢は驚いた様子で…… 「ま、まさか来るなんて……思いもしなかった」 「お前……オレを何だと思ってんだよ……」 「ご、ごめん! 悪気はないの! ただちょっと、意外だなぁ……と思って……」 「意外とか思う時点で、オレへの印象がおかしいと思うのはオレだけか?」 「そ、そそそそうだよね! ごめんなさい……」  シュンとする羊沢。  そんな彼女を見てため息を吐く虎崎。「まったくーー」と声を漏らしたその時、ある事に気付いた。 「お前! 両足から血が出てるじゃねぇか!?」  羊沢の右膝にはすり傷、左ふくらはぎには何かに噛まれた様な傷があった。出血している。 「すり傷の方は何となく理由が想像出来るが……そのふくらはぎの傷はどうした? 何かに噛まれた様に見えるんだが?」 「え、えーっと、これはね。ついさっき、犬に追いかけられたの」  羊沢が答える。 「でね、逃げてる途中に転けちゃって……」 「もしかして……」 「うん、噛まれちゃったの」  そんな出来事をあっけらかんと答える羊沢。  そんな彼女を見て虎崎は。 「ぷっ!」  笑った。 「ハハハハハハ! 何だよそれ! おもしれぇ!! ハハハハハハ!!」 「も、もう! 笑わないでよね! こう見えても結構痛いんだから!」 「りょ、了解。なら今から保健室行こうぜ。消毒と、バンソーコーの貼り方ぐらいなら、オレも知ってるからよ」 「だ、大丈夫だよ、そんな事しなくても!」  慌てて拒否をする羊沢。  そんな羊沢の手を取り、虎崎は引っ張って行く。 「バーカ。そういう怪我を舐めたら痛い目見るぞ? ただでさえ、お前運が悪いんだからよぉ」 「ちょっ、虎崎くん!?」  保健室到着。  虎崎がバンソーコーと、消毒を行う。 「さっさと終わらせて、当番の仕事するぞ」 「う、うん。ありがとう……」  黙々と手当てを行う虎崎。すると、彼から切り出した。 「お前、【不幸体質】なんだって?」 「そう……知ってるんだね」 「ああ、犬凪の奴から聞いた……大変だっただろ? 色々とよ」 「え?」 「その……アレだ。オレもゾンビとか呼ばれててよ。周りから浮いて、荒れた時があったんだよ……んで、不良共に目を付けられて……その……周りを、だな……」 「うん、巻き込みたくないって事だよね。分かるよーー  」  虎崎の手が止まる。羊沢は続ける。 「私も……小学校の頃、この不幸体質で色んな子を巻き込んでね。巻き込みたくないからーー他人と関わらないようにしてたの」 「……やっぱそうか」 「でも、中学の時、護くん……あ、犬凪くんと出会って、景色が変わったの」 「え?」 「私の不幸体質に……皆が離れて行く中、護くんだけが、私から離れずに、ずっと傍にいてくれたの……の事は忘れないなぁ」 「あの時?」 「うん、まぁ、色々あったのよ。私とーー護くんの間でも、ね」  「色々…」虎崎は、その言葉を復唱し、羊沢は続ける。 「そりゃそうでしょ? 虎崎くんなら分かるんじゃない? だってーー  今、護くんに何を言われても」  どんぴしゃだった。  虎崎の表情を見て、予想通りだったのか羊沢は微笑む。 「でしょ? 私もそうだったの」 「お前も? そうは見えねぇけど。仲良いじゃん、あいつと」 「今はそうだけど、昔は嫌ってたよ。」  そう言って苦笑いを浮かべる羊沢。  その表情を見て、虎崎は改めて尋ねる。 「その……あのよぉ、犬凪は、その……良い奴なのか?」  虎崎のその問い掛けに対し、羊沢は即答する。 「うん、良い人だよーー  私が保証する!!」  その笑顔が、虎崎にはとてもーー  輝いて見えた。  自分とよく似た境遇で生きながら、こんな笑顔になれるのか。と、虎崎は思った。  自分もこんな笑顔になってみたい…… 「なぁ羊沢。オレも……」 「うん、虎崎くんも変われるよ。きっと! 護くんを信じてみて!!」 「…………」  ここで無言になる虎崎。  手当てを終える。  無言のまま立ち上がり、一言。 「手当ては終わった。教室へ行くぞ。その……学級当番の仕事、教えてくれ」  その言葉を聞いた羊沢。笑顔で立ち上がり返事。 「うん!!」  2人は、教室へと向かったのだった。
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