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《3》
その後、真田はどこにでもあるような話を新入生にし、入学式へ向かうよう指示を出した。
当然、向かう先は体育館である。
虎崎も一応人間だ。これ迄の出来事に、流石に気分を悪くしていた。
このままバックれてやろうか。
彼がそんな決意を固めていると……
「私もバックれよーっと」
ぴょんと跳ねるように、虎崎の横へその女子は現れた。
「誰だテメェ?」
「えへへ、当ててみて」
その女子は、先程虎崎の怒気ある声に怯む事なく頬杖を付いて笑みを浮かべていた女子なのだが、そんな事彼は知る由もない。
そして名前当ててみて、と言われても当たる訳がない。
「あぁ? 当たる訳ねぇだろう。バカじゃねぇの?」
「だよねー、私以外の人間が分かる訳ないよねぇー」
何言ってんだコイツ? 虎崎はそう思った。
その言い方だとまるでーー
この女子には、それが出来ると言っているように思える。
虎崎は思った。
そんな事出来る訳ねぇーー
「それが出来てしまうんだなぁー、これがまた」
「はぁ?」
ここで虎崎は違和感を覚えた。
オレ今……声に出してたか?
それはまるで、心を読まれたかの様な違和感だった。
しかし、心を読むような人間がいる筈もない。虎崎は、気の所為だと自分の中で納得し、話を進めた。
「とにかく! オレに近付くな。さっさと向こうへ行け、しっし!」
まるで小動物を追い払うかのように手を上下させる虎崎。
「私の名前は、兎美愛。アナタは愛って呼んで良いよ」
「人の話聞いてんのか!? 何勝手に自己紹介を始めてんだよ!!」
「そのあっち行けって言うのは、ちゃーんと理由があるんだよね? 私はそれに気付いてるから大丈夫だよ。虎崎五太郎くん」
ここでも違和感を覚える。
「お前……そりゃどういう事だ?」
「五太郎くん、君はーー」
「おい! 虎崎と兎美! 何を二人残ってくっちゃべってる!! さっさと体育館に来い!!」
と、ここで真田が、教室の前で話をしていた二人を怒鳴った。
「えへへ、ざーんねん。見つかっちゃったね」
笑顔を見せる兎美。
しかし虎崎は真顔で「何が残念なのか、オレには分からん」と、体育館へのルートとは別方向に歩いて行こうとしている。
「虎崎、お前入学式出ないつもりか」
真田は言う。
「お、分かってんじゃん。流石先生」
「オレは二度目は無いって言ったよな?」
「先生が無いって言ったのは、机を蹴るなって事だろ? 入学式バックれるのをやめろとは一言も聞いていないし」
険悪なムードを漂わせる二人。
その間で虎崎は笑顔を見せている。
何とも不思議な空間だった。
「屁理屈を言うな、入学式に参加するのは当たり前の事だ。お前はそんな事すら分からない馬鹿なのか?」
「そうだなぁ、オレ馬鹿だからそんな当たり前すら知らなかったわ」
「…………」
無言で近寄り、木刀を振るう真田。
またしてもそれを容易く左手で掴む虎崎。
「オレも言ったよな?」
睨み付けながら彼は続けた。
「次は怒るってよぉ!!」
虎崎は木刀を持った左手一本で、真田を空中へ放り上げた。
「は?」
そのあまりの馬鹿力に、真田は唖然とする。
虎崎はそんな真田の顔面に、右拳を叩き込んだ。
「がはっ!!」
真田はそのまま廊下へ叩き付けられる。
鼻血を出して気絶。
「これに懲りたら、オレの事は放っておいてくれ」
こうして、気絶した真田を背に、虎崎は入学式をバックれたのだった。
因みに、兎美はそんな二人をキョロキョロと見比べ。
「流石に、倒れてる人を放って置く訳にはいかないよねぇ……? 保健室の前まで連れて行こっか」
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