虎崎五太郎という男

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《7》  虎崎は生徒指導室に通された。 「生徒指導室? 何だ? あんな目に合って、まだオレを指導しようとか考えてる訳? あの時分かっただろ? オレにそういうのは無駄って……」 「お前……は本当なのか?」  間髪入れず、真田はそんな事を尋ねた。 「何の事だよ」 「しらばっくれるな。既に耳に入っている」 「…………」  虎崎は溜め息を吐き、何も言わず立ち上がった。そして生徒指導室に置いてあったボールペンに手を伸ばした。  そしてーー 「お、おい! 何をする気だ!?」 「黙って見てろ」  そう言って、虎崎はボールペンを左手に突き刺した。  先程、木刀越しに80キロはある真田を片手で投げ飛ばした馬鹿力の虎崎が、全力でボールペンを左手に突き刺した。  ボールペンは肉を突き破り貫通。  血が大量に流れている。  蓋をしていたボールペンを抜く事で、尚更その血は流れ出る。 「お前! 本当に何をしてーー」 「良いから! 黙って見てろ」  立ち上がり、処置をしようとした真田を虎崎は声で制する。  現在、彼の左手には穴が開いている。  ボールペン大の穴が。  それを真田に見せ付けるかのように掲げている。  しかし、彼のこのパフォーマンスは、ここからが本番なのである。 「ほ、本当になのか?」 「あぁ」  穴が開いていた左手が。  ボールペンを突き刺し出来た筈の穴が。  みるみると塞がっていく。  そしてーー  。 「これで分かっただろ?」  真田はそれを見て言葉を失う。  そんな真田を前に、虎崎は言う。 「これを見て、皆オレから離れて行くんだ」  虎崎は言う。 「オレはだ」  真田はここでようやく口を開いた。 「なるほどーーこの目で見るまでは信じられなかったが……それがお前がか」 「そうだよ。コレだからオレはゾンビと言われている。皮肉としてな」 「びっくりだな」 「そりゃびっくりするわな」  虎崎はポケットに入れていたハンカチで、先程溢れ出た血液を拭きながら言う。 「これで分かったろ? オレは化け物だ。普通の人間じゃねぇんだ。元から、普通の人間みたいに高校生活をエンジョイするつもりはない。ただ卒業出来るだけで良いんだ。だからオレにこれ以上かかわーー」 「そうやって逃げて来た訳だな」  真田は言った。 「逃げた、だと?」 「お前は逃げてるんだよ。お前が言う、その、普通の人間ってやつから」 「お前に何が分かんだよ!!」  虎崎は机を全力で蹴り飛ばし、激昂した。  机は宙を舞い、壁に激しく激突。 「普通の人間に! オレの気持ちは分からねぇよ!!」 「だから学校生活を楽しまない……一人でいる事を選ぶって言っているのか? 間違っているぞ、それは」 「こんなオレが友達を作れる訳ねぇだろうが!! 馬鹿な事言ってんじゃねぇぞゴラァ!! 口だけでは何とでも言えんだよ!! オレは化け物なんだぞ!!」 「化け物? オレにはそうは思えない」  真田は言う。 「なぁ虎崎? お前はオレの生徒だ。化け物でも何でもない、ただのオレの生徒だ。だからこそオレはーー  」 「……だったらどうするってんだ?」 「お前にもーー  学校生活を楽しんでもらう。何としてもだ」  虎崎は呆れたのか、静止も聞かずドアの前に立つ。そしてドアを激しく開け…… 「勝手にしやがれ!!」  そう叫びながら、ドアを激しく閉めた。  生徒指導室には真田だけが残されている。  真田は、先刻虎崎が使用した血の付いたボールペンを手に取る。 「全く……凄いクラスの担任になってしまったものだ。まさかあんな超常的な性質を持つ生徒がーー  もいるクラスの担任なんてな」  真田はそのボールペンを握り締めた。 「残念だが虎崎。お前のその、一人でいたいという望みは叶わない。何故ならーー  オレがいるからだ」  ギュッと握り締めた。  一人になんかさせない……絶対にーーそれが先生のすべき事なのだから。  そして真田は言う。 「最高の高校生活にしてやるから、覚悟しとけよ」
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