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《8》
入学式を終えての初下校ーー
本来は新たな生活が始まる事を喜んだり、楽しみにしたり、ワクワクしたりするものだが。
虎崎は怒っていた。
怒り心頭だった。
「何なんだよアイツ! 腹が立つ!!」
虎崎の心の中では、真田の言葉がこだましていた。
何度も何度も。
「ッチ! 無理なんだよ! 何でそれが分かんねぇんだ!!」
ーー学校生活を楽しんでもらう。
「んがぁー!! 思い出せば思い出す程腹が立つ!! あぁー腹立つ!! バーカ、アーホ!!」
「お母さん、あそこに変な人がいるよー」
「シッ、見ちゃいけません!」
あまりの怒りに周りが見えておらず、変人扱いされる虎崎だった。
そんな感じで悶えながら歩いている内に、自宅へと着いた。
玄関のドアを開ける。
「ただい……」
ただいまと言いかけて、虎崎はやめた。
「そうか……オレ今、一人暮らししてるんだったな……」
自宅の中は静寂に包まれており、その静かさがどこか寂しさを表現している。
引っ越ししたてという事で、家具もあまり無く、それが尚、寂しさを引き立てている。
それはまるでーー
「相変わらず何もねぇなぁ……空っぽだ。まるでーー
オレの心の中みてぇだ」
それは、虎崎が一人になった時だけ、漏らす事の出来る弱音だった。
弱音ーー本心。
彼の気持ちがマイナスに傾いた時、必ずと言って良いほど再生される言葉が3つある。
ーーコタちゃん怖い!
ーー何だよそれ! オレを騙してたのかよ! 化け物!!
ーー何故お前みたいな化け物が産まれて来たんだ!!
「どうせオレなんて……」
これらの言葉はそれぞれ、とある出来事、ある人物達から発せられている。そして、これらの出来事から、彼は心を閉ざした。
心を閉ざし。
諦めた。
「皆同じだよ……結局は」
熱い思いをぶつけてくれた真田にでさえ、虎崎は心を一切開こうとしない。
虎崎の心の鍵はまだーー
硬く、閉ざされている。
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