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「恥ずかしいから、もう、勘弁して」
半裸の亜裏紗が懇願する声は、浅乎家のリビングに響いていた。
カメラ手に、妻、亜裏紗の顔上半分は、ベネチアンマスクで隠されていた。ブラウスは胸の谷間がはだけ、ランジェリーが少し見える姿は、夫の見忌生を撮影する。
「亜裏紗。このくらいにして欲しいなら、ほら、いつも通り、カネ、カネを出せよ!」
「わ、分かりました」
見忌生が、窓辺に夜、目隠しの分厚いカーテンを邪魔そうにどうかしながら、景色を眺めていた。
高層マンションから、遠くへ視線を移す。地元の繁華街、は、看板の明かりで遠くで大小さまざまで、派手な色がひしめきあっていた。
亜裏紗が、慌てて身だしなみを整えていた。ベネチアンマスクはポケットにねじ込み、折れ目がつく。リビングの戸棚から、茶封筒を手にしている。見忌生は茶封筒を、引っ手繰るように奪っている。茶封筒の封を開け、札束を指で弾いて、枚数を数えていた。
茶封筒に札束を戻して、デジカメと一緒に、スーツの内ポケットにしまう見忌生に、亜裏紗は擦り寄りながら、目を腫らしていた。
「諒詫郎が今度、保育園に上がるでしょう。習い事の費用のために、かんり、無理して私が働いて、溜めたお金なの」
「――そうか」
目に涙を溜めた亜裏紗は、一人息子の諒詫郎は可愛がる、見忌生の良心に訴えかけていた。夫婦の視線が交差して、暫しの沈黙が続く。
「諒詫郎ことは言うな! また稼いでくれ」
亜裏紗は長い睫毛を下に向けながら、胸の内で叫んだ。この、ろくでなし、DV男。前は従順な性格だったくせに……。
温和を通り越し、やや押しに弱い見忌生が一変したのは、二年ほど前だ。
夜、夫婦で語らいをしていたら、突然、妻にベネチアンマスクをはめた。いきなり、嫌がる亜裏紗の裸体を撮影したのだ。
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