弁護士さんにお願いしたい。仮面で顔を隠したがる人たち。

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 二台のタクシーが、数台の車を挟んで、走っていた。窓から流れる光はは、住宅街からの単調な色が続く窓明かりから、徐々に歓楽街のカラフルな色調に変わる。  夫のタクシーは、子供たちに、ここは通らないよう、近所で、言われる繁華街の大通りで止まった。 「お客様、この先はタクシー乗り入れ禁止なんです」 「分かりました」  タクシーを降りて、ごったがえす人の波を縫うようにしながら、米粒大の夫の背中を見失わないよう追いかける。両端に広がる店舗は、深夜営業の煌びやか看板が続く。  人の通りは多く、男性や、派手な服の女性が多い。地味な服の亜裏紗(ありさ)は逆に人目を引いていた。 「あら、どうしたの」 「あ、こんばんは」  ママ友で、ホステスをしている女性と、ばったり出会ったのだ、今、急いでいる、と、短く告げた。憎い夫の背中を見失うことは、なかった。  ママ友は、まだ仕事中だった。肩で息をし、体をくの字にしながら、先を急ぐ。  見忌生(みきお)はネオンが輝く、秘密倶楽部の看板がある店に、きょろきょろ左右を見ながら、早足で消えた。 「ここでも、お金を払ってまで、私みたいに、女性をいたぶって喜んでるんだ。どういうヤツ!」  怒りでぎゅっと拳を握り締め、スカートに皺ができる。意を決したように、繁華街を抜ければ、すぐの、灯下(ともした)法律事務所へ歩き出す。 ***
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