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それから椎名は約束通り、2ヶ月に一度だけ面会に来てくれた、そしてその度にラノベを持ってきてくれて看護士に怒られるまで読んでは感想を言い合った。
…けど、約束をして半年くらい経った4月、ふと私の中で何かがプツリと切れラノベを手に取る機会が減っていった。
芽依「…はぁ…」
数ページ捲った所でため息をつき栞も挟まずライトノベルを閉じる
椎名「石上氏ー、今回も…」
酷く落胆する芽依を見て表情を曇らせる椎名、心配しながら恐る恐る芽依に声をかけた。
芽依「椎名…ごめん」
椎名「どうしたんじゃ石上氏?」
芽依「私…もうラノベ…好きになれないや…」
椎名「…もしやとうとう転生魔王があらぬ方向に!?…」
芽依「違う…もっと根本的な…ラノベが…嫌いになったんだ…」
椎名「石上氏…」
芽依「ずっとこんな所に閉じ籠ってるからかな、死が近づいてるって思うと怖くなって、苦しくなってツラくなって…今まで勉強も部活も必死こいて結果が出なくても下手くそなりに頑張ってきて…そしたら…癌になって余命宣告されてさ…」
椎名「…その石上氏の頑張りは妾がずっと見てきた……」
芽依「…知ってる…椎名はずっと一緒に居てくれた……でもさ、私ラノベ見てて思ったんだ…大して努力も苦労してないでロクな友達も居ないような主人公が勝手に死んで転生してさ…そんな奴がチート能力持って周りにチヤホヤされて……どうして何の努力もしてない奴が良い思いをすんの?頑張ってきた人はどうなるの!?」
椎名「石上氏、落ち着け!あくまでラノベはフィクションじゃ!」
芽依「分かってる…けど、頑張らない奴が得をするなんてどうかしてる!!」
椎名「言いたい事は分かるが…石上氏、あくまでラノベは娯楽じゃ、現実じゃない…誰だって楽して強くなりたいと思うじゃろう!その願望を形にしたのがこう言ったフィクションじゃ!石上氏は今そのフィクションと石上氏の現状を比較している!!」
芽依「……出てって」
椎名「石上氏…?」
芽依「さっさと出てけ!!」
本棚に並べられたラノベを乱雑に掴み椎名に向けて投げつける
椎名「ちょっ!!石上氏!?」
反射的に投げつけられたラノベを全て受け止める
芽依「……全部取れるんだ…」
椎名「…当然じゃ…石上氏とは違うからな」
タイトルと巻数順に並び替え、本棚に戻し病室を去っていく
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椎名の言うとおりだ、私は余命間もない自分を悲劇のヒロインに仕上げフィクション相手に妬んでるだけだった。
それに…私が椎名と出会った切っ掛けまでも否定してしまった。…何やってるんだろ私…残り少ない命、楽しもうと思ってた筈なのに
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