思い出の色なんて

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「わざわざ来てもらって悪いな」 「……いえ」 成人を過ぎ数年が経った頃、俺の目の前に現れたのは先輩ーーーーではなく、姉が片想いしていた彼の親友だった。結局恋は実らなかったらしいが、その後も良き友人関係は続いたそうで、今回俺に連絡があったのも姉を通してだった。彼は布にくるまれたカンバスと、年期の入った絵の具入れを差し出した。 「最後の一筆はね、君に入れて欲しいそうだ」 「……なんで、そんな……俺、絵とか全然得意じゃないのに」 「ほんと無茶言うよなぁ。俺も無理強いはしないよ。出来ないと思うならそのまま捨ててくれて構わない。君になら、あいつも許すだろうさ」 なんてことない話だけをぽつぽつと交わして去っていったその人は、確かに姉が惚れるのも分かる気がする、そんな人柄だった。それと、先輩の事をとても大事に思っていたことも伝わってきた。 聞けば先輩は「やらなければならない事が全部終わったから」と、あっけらかんと笑ってこの世から去っていったらしいのだから、恨めば良いのに。
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