思い出の色なんて

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それから更に数日。俺は結局捨てても良いと言われたそれを抱えたままで、先輩の墓を訪れた。きっとあの優しい人は此処を訪れても先輩を詰りはしないのだろうから、俺が代わりに責めてやろうと思ったのだ。 「……ねぇ先輩。俺本人が目の前に居ないのに俺の事無許可で描くの止めて貰えません?これって肖像権の侵害とかじゃないんですか?あと俺絵得意じゃないって言いましたよね?なんでよりによって空を残すんですか。何色で塗れば良いか……わかん、な…………」 仏頂面で美術室の粗末な椅子に腰掛ける俺。描き込まれた床や黒板、その中で唯一、大きな窓だけが着色されていなかった。例えば机や壁なら、まだこの色だと決められたのに。だって、晴れの日も曇りの日も雨の日も雪の日も、あそこに座っていたんだ。それのどれを切り取れば良い? 「……もう今だから言います」 本当に身勝手な人だ。卒業が近付いたある日、急に美術室どころか学校にすら来なくなって、結局式にも出席しなかった先輩。別れの挨拶すらなく急になんの音沙汰もなくなった時も随分と腹が立ったけれど。本当にこの世のどこにも居なくなる時までこんな難題を押し付けていくなんて。 「俺本当は、先輩の事大っ嫌いでしたよ」
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