【2000字掌編】雪花葬

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 冷え切った薄明るい空から、この冬初めての雪が舞い降りる。風に乗って千々に乱れ舞う結晶は、やがて片田舎の農村を白い世界に染め上げていくだろう。  耐え難い静寂の中、山々を覆う草木さえも眠りにつく。  何て恐ろしい。この季節は、自然はおろか人さえも死んだように沈黙する。    もうすぐ10才になる深冬は、囲炉裏端でくすぶった炭を火箸でつつきながら、父の彰の顔を窺った。子煩悩な彰は、深冬が泣くとおどけながらあやし、つられて笑うと「偉いなぁ」と褒める。雪に閉ざされる村を離れ、多くの男が険しい顔で出稼ぎに行くなか、彰が家に留まるのは、母がおらぬ深冬のためだった。 「雪は嫌い。毎日学校へ行くのも寒くて凍えるし、お父ちゃんの手もあかぎれがひどくなっていくし」  冬の間の彰は、方々の家で牛馬の世話をしたり雪かきをしたりと、男手の足りない村でめっぽう忙しい。  春になり、都会から帰ってくる友達の父親は、何となく立派に見えて羨ましくもあった。けれど、村の誰もが彰を頼りにしていて、よそのおばさん達が深冬を構ってくれるので、母がいなくても寂しくなることはなかった。
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