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しかし、雪の中で村が眠っていたのは幸いだったのかもしれない。
雪解けを待っていたかのように、多くの村の男に赤紙が届いた。
畑で農作業を待ちわびていた彰も、その一人だった。
不安そうな深冬の頭を撫で、「参ったな、ちっとも向いてやしない仕事なんて」と呟き、痛々しい顔で彰は天を仰いだ。
それからはあっという間だった。言葉少なに彰は身の回りのものを整理し、深冬は近所に住む伯母に預けられた。
出征の日、隣町の鉄道の駅から万歳三唱で見送られる彰は、全然似合わない兵隊の服を着ていて、深冬はちっとも嬉しくなかった。
けれど周りの人に叱られるから黙り込んでいると、すっかり覚悟を決めたような彰がしゃがんで、あかぎれの消えない掌で、深冬の小さな手を包んだ。
「深冬が優しい子に育ってくれて、俺は幸せだ」
「本当に?」
「深冬なら、きっと仲直りできる」
「お父ちゃん?」
手を放し立ち上がった彰は、それ以上は何も言わなかった。別れの悲しみは歓声にかき消され、彰のまっすぐな背中が遠ざかるのを、深冬はぼんやりと眺めていた。
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