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「征司お兄様はね——そうは言わなかった」
不意の口づけをかわし
その代わり憎々しく僕は言葉を吐き出した。
「あの刑事は僕の為に今持ってるものを捨てる気はないってさ」
「つまり?」
肩透かしを食らった椎名さんは
可愛いくらい残念そうに唇を尖らせる。
「つまりパーティーの席で貴恵お姉様が僕に鈴蘭毒を盛ったことを告発したところで——刑事は僕の味方をしない。貴恵が罰を受けることはないっていうんだ。それどころか、恥をかかされるのは僕の方じゃないかってさ——」
そこまでいったところで。
まるで台本が用意されていたように
パウダールームの扉がゆっくりと開いた。
「失礼、ノックしなかったことは謝る——でも」
ちょうど氷のような瞳と揃いの
アイスブルーのネクタイを締めた九条敬が立っていた。
「九条さん……」
「僕は出ていようかな」
察しのいい錬金術師はあれよと言う間にドアの隙間をすり抜けてゆく。
代わりに氷の王子様がやってきて
「火傷するよ」
僕の手からヘアアイロンを取り上げた。
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