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聞かれていた——。
コトリとヘアアイロンを大理石の洗面台に置くと
九条さんは僕の心の声を読んでいたかのように頷いた。
「参るね……君は僕を卑しいスパイにさえしてしまう」
軽やかなのはカールをつけた僕の髪だけ。
重い空気に僕らは向き合ったまま身動きさえ取れない。
「立ち聞きするつもりはなかったけど、結局立ち去れなかった」
「いいの……それは当然」
彼が詫びるのはお門違い。
だけど――。
「今日この場で貴恵に復讐を考えてるの?」
「……うん」
彼にはやはり知られたくなかった。
「それでどこぞの刑事に取り入っていたってこと?」
「いや、何もしてないよ。ただ味方になってもらおうと思って……」
復讐や駆け引きやその他諸々醜悪なもの。
「征司くんは知ってたんだろ?」
「うん……」
「僕はいつも蚊帳の外?」
天宮家としては伝統的なものだけど——。
やはり彼には僕の綺麗な部分だけを見ていて欲しいんだ。
九条さんの細い指が僕の胸元に輝くシャネルのブローチに触れる。
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