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そんな貴恵を遠くから見つめる男の視線に気づいたのは僕の方が先だった。
なぜなら僕はこの瞬間をずっと待っていたからさ。
場違いにもポケットに両手を突っ込んで立つ壁の花。
冴木だ――。
(彼が裏切る……?僕の為に何も捨てたりはしないって……?)
しばらく貴恵を見つめる冴木の視線を探ろうと思ったけど無駄だった。
彼の方が僕に気づいてちょっと頷いて見せたからだ。
僕は人の流れに沿ってごく自然に冴木に近づいた。
途中ウエイターの盆から花やフルーツで派手に飾り立てたカクテルをひとつ手に取る。
僕の足取りに魅入られたように冴木は目を細めていた。
「いらっしゃい。ゲスト?それとも警護の仕事?それとも——」
僕はそっと動かぬ肩に手をかけると耳元に囁いた。
「僕の為にいらしたの?」
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