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「……え?」
貴恵は僕らの事、鼻にもかけてはいない。
だけど——。
「おまえが俺の傍へ来た途端あっちからもこっちからも敵意の目を感じる」
さすがは刑事。
視線をやらなくとも分かるんだ。
「ああ、麗しき僕の崇拝者たちだ」
九条さんと征司が挟み撃ちで僕らに睨みをきかせている事。
「冗談言ってないで早く戻りな」
冴木は一瞬。
あの大衆居酒屋で料理を突いていた時みたいな親し気な顔になって。
「おまえの喜ぶようにしてやる——だから俺を信じて待ってろ」
とっくに覚悟は決めているんだとばかり言った。
「はぁい」
可愛く返事をし踵を返した僕の胸に巣食っていたのは——。
黒い羽の生えた虚栄心だった。
九条敬の心を完全に奪った時。
あの満たされた感動の再来。
そして大勢の人間が集まるこの場で今日
完璧な復讐を果たすんだ——。
すれ違う人たちが驚いた顔して僕を見てゆく。
だって待ちきれやしない。
惨めにどん底まで落ちる女王。
考えただけでもこみ上げる笑いをとどめるのは難しかった。
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