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僕がこの屋敷にやってきて以来。
僕を目の敵にしていた美少女。
ツンとそっぽむいたまま
僕には笑顔一つ見せてくれなかったけれど。
愛らしく華やかな紅一点。
貴恵は蝶よ花よと育てられた本物の令嬢だった。
僕に対する徹底した嫌悪は決して揺るがず
妾の子であるというだけで容赦なく野良犬のように扱った。
誰に媚びることなく貫き通す憎しみ。
目の敵にされながらも僕は——。
時にその憎悪に潔ささえ感じたほどだ。
「何考えてる?順調かい?」
さりげなく僕の後ろを通りかかったのは
当主の正式な招待客ではない椎名涼介だった。
「ええ。順調ですよ。やっぱり髪を巻いておいて良かった」
僕は振り向きもせず答えた。
「どうやら賭けは僕の勝ちみたい」
襟元を正し足音もなく貴恵の傍へにじり寄る
黒ヒョウのような冴木の姿を見つめながら甘いカクテルを口に運ぶ。
蜜に群がる蝶のように浮かれてフワフワと——。
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