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「失礼——」
それで冴木刑事がひるむことなく
マネのミューズの如き貴恵の前に立った時には。
「何かしら?」
自ずと場が静まり——皆がそれぞれの位置から
次の瞬間に目を光らせていた。
細いスーツの胸元にすっと長い指を収める。
冴木尊は逮捕状を取ってきたのかもしれない。
僕の為に——。
僕は征司の方をちらと見やる。
あちらも人の間を縫って僕を見つめていた。
僕の為に全てを捨てるわけなんかないと征司は言った。
その男が今やろうとしていること——。
誰でもない。
あの人にだけはしっかり見届けさせてやりたかった。
それで僕を過小評価した件については
後できっちり詫びてもらうとしよう。
次に僕は雪に女王を彷彿とさせる
アイスブルーのネクタイを締めた彼氏に視線を移す。
いつもの如く九条敬はトラブルを楽しんじゃいなかった。
誰より現実的な顔つきで僕と冴木を交互に眺めていた。
そして——。
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