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征司は何か言おうとしたが
言葉が見つからないのか——眉間にしわを寄せただ舌打ちした。
「奴を誘惑してどうする?」
「例のパーティーの日に——」
「おい!大事な日だといったろ。面倒を起こす気か」
咎める声と僕を両手で抱き起すのは同じタイミングだった。
「そうだね。世間体の為に追い出そうとしてた僕と九条さんを引き止めたくらいだもの……」
「もう一度捻じ伏せられたいか?」
「ごめんなさい……でも……」
僕は腕に抱かれたまま
人形みたいにぐんにゃりとその胸に頭を預ける。
「そこで復讐するって決めたんだ。お兄様が反対したってやるからね」
「馬鹿が——この状況で宣戦布告かよ」
全身の力が抜けてゆく。
支えがないと起きてさえいられないけれど。
「どこにも行くなと言ったでしょう?だからここでやる」
今は愛に包まれた子猫みたいにまどろみながら
僕には我儘を言う権利があった。
「ふん、勝手にしろ。でもな——」
征司は僕の身体を弾くように撫でながら
どこかからかうように言った。
「返り討ちに合うなよ——復讐の女神はとかく強い人間が好きなんだ」
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