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「シャネルのツイードスーツ。1920年代のモダンガール風か?」
「征司お兄様はね、二連になったパールをつけろって言ったの。でもそれってやりすぎじゃない?」
「可愛い弟を見せびらかしたいんだ」
椎名さんは面白くなさそうに言うと
洗面台の脇に設置された椅子に座って足を組む。
「だから僕ね、シャネルのブローチの方がいいんじゃないかしらって言ってやったの。そしたらなんとさ、九条さんがすぐさまシャネルの箱を持って現れたわけ。『君はきっとそう言うと思って買っておいたよ』ってこれをね」
僕は細い͡コテを温めながら
胸元を彩るきらびやかなブローチを指さした。
「つけたんだ?」
「つけたよ。征司お兄様の目の前で九条さんが膝をついてその場でさ」
「おー、怖」
椎名さんは鼻で笑った。
「征司お兄様なんて言ったと思う?」
「さあてね」
僕は温まったコテで『ベニスに死す』のビョルン・アンドレセンのようなカールを作りながら椎名さんを振り向いた。
「ブローチをつけてもらってる僕の隣に来てさ、髪を撫でながら聞こえるようにこう言ったんだ『良く似合ってる。昨夜裸にシャネルの5番もつけといてやったしよかったな』って!」
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